日本の研究者のための英語論文の伝え方 ⑩ それでも英語で書くということ
- 6月10日
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AI翻訳やAIライティングツールの発展により、英語で文章を書くハードルは以前より大きく下がりました。それでも、英語論文を書くという作業がなくなったわけではありません。
このシリーズでは、英語表現そのものではなく、「研究をどう伝えるか」という視点から英語論文について考えてきました。最終回となるこの記事では、AI時代に研究者が英語で書くことの意味を改めて考えます。
このシリーズで見てきたこと
これまでの記事では、英語論文が「伝わらない」ときに何が起きているのかを取り上げてきました。
英語論文を書くことは、単に日本語を英語に置き換えることではありません。何を明らかにしたのか、先行研究と何が違うのか、なぜ読者にとって重要なのかを、異なる背景を持つ読者にも伝わる形にする作業です。
タイトルやAbstract、新規性の示し方、査読コメントへの対応など、一見別々に見えるテーマにも共通点があります。それは「自分が伝えたいこと」ではなく、「相手にどう伝わるか」を意識することです。
AI時代に変わること、変わらないこと
AIを使えば、自然な英語表現を作ることは以前より簡単になりました。文法の修正、表現の改善、文章の言い換えなど、多くの作業を支援できます。
しかし、AIが生成した文章が自然であることと、研究内容が正しく伝わることは同じではありません。
前回の記事でも触れたように、AIは流暢な文章を作ることはできますが、研究の意義や位置づけを判断することはできません。どの結果が重要なのか、どの範囲まで主張できるのか、その研究が分野の中でどのような意味を持つのかを決めるのは、研究者自身です。
英語以前に決めるべきことがある
英語論文を書く前に必要なのは、完璧な英文を作ることではありません。
まず必要なのは、既存研究のどこに課題があったのか、この研究は何を追加したのか、誰にとって重要な成果なのかを明確にすることです。
ここが曖昧なまま文章だけを整えても、読みやすいけれど何を伝えたいのかわからない論文になってしまいます。
英語は研究を届けるための手段です。伝える内容が整理されているほど、英語表現も選びやすくなります。
ツールを使える時代だからこそ、研究者が判断すること
AIや翻訳ツールは、研究者にとって強力な支援になります。特に英語を母語としない研究者にとって、表現面の負担を減らせることは大きな変化です。
一方で、ツールに任せられない判断があります。
どこまで強く主張できるのか、どの結果を中心に見せるのか、研究の貢献をどう位置づけるのか。こうした判断は、その研究を最も理解している著者だからこそできる部分です。
AI時代には「英語を書けるかどうか」よりも、「何を伝えるべきかを判断できるか」がより重要になります。
英語で書くことは、研究を伝え直すこと
英語で論文を書くことは、単なる翻訳作業ではありません。
日本語で考えた内容を英語に置き換えるだけでは、背景の異なる読者には十分に伝わらないことがあります。前提となる知識、研究分野で共有されている問題意識、研究の意義を、国際的な読者にも理解できる形に組み立て直す必要があります。
日本国内のデータ、地域特有の課題、日本で発展してきた技術や知見も、伝わる形で発信されることで、より広い研究コミュニティの議論につながります。
英語で書くことは、研究内容を別の読者に向けて再構成する作業でもあります。
一度で完璧に書かなくていい
英語論文は、最初から完璧な形で完成するものではありません。
共著者との議論、Editorからの指摘、査読者からのコメントを通じて、少しずつ伝わる形に近づいていきます。
修正を求められることは、必ずしも失敗ではありません。読者に届かなかった部分を見つけ、より明確にする機会でもあります。
重要なのは、「英語が間違っていたか」だけを見るのではなく、「なぜ伝わらなかったのか」を考えることです。
まとめ
英語論文を書く目的は、完璧な英語を書くことではありません。自分の研究を、異なる背景を持つ読者に正しく届けることです。
AIや翻訳ツールが発展しても、研究の価値を判断し、何をどう伝えるかを決める役割は研究者に残ります。
伝わる英語論文とは、文法的に整った論文だけではなく、研究の価値が正しく届く論文です。
日本の研究者のための英語論文の伝え方(全10回)
⑩ それでも英語で書くということ (本記事)


