日本の研究者のための英語論文の伝え方⑧Response to Reviewersで失敗するパターン
- 5月27日
- 読了時間: 5分

0. Responseで起きやすい誤解
査読コメントへの対応を始める前に、よくある思い込みを確認しておきます。
「全部受け入れないと通らない」と思い込む
「とにかく丁寧に書けばよい」と考える
「修正した事実」だけを伝えれば十分だと思う
いずれも自然な発想ですが、査読者が確認しているのは「修正の妥当性」です。すべてに同意する必要はなく、丁寧さだけでは不十分で、修正したという事実より「なぜそう修正したか」が問われています。この前提を意識しておくと、以降のパターンに心当たりが出てくるかもしれません。
1. 「謝るだけ」で終わってしまうパターン
日本語的なコミュニケーション感覚が、英語論文の対応にそのまま持ち込まれるパターンです。
"Thank you for your valuable comment. We have revised the manuscript." という返答は、一見丁寧に見えます。しかし査読者の立場から読むと、「何をどう直したのか」が何も伝わっていません。感謝を示すことは問題ありませんが、それだけで終わると対応内容が査読者に伝わらないまま提出したことになります。
査読者が知りたいのは謝罪ではなく、「どこをどう直したか」と「なぜそう判断したか」です。丁寧さと具体性は対立しません。感謝の一文の後に、修正内容と根拠を続けることで、両立できます。
2. 「修正した」が伝わらないパターン
修正は確かに行ったのに、査読者に伝わっていないケースがあります。
"We have revised the manuscript accordingly." という一文だけで終わるResponseがその典型です。この返答では、「どの部分に、何を追加・修正したのか」が見えません。査読者は修正稿と回答書を同時に読みながら、どこが直っているかを確認します。回答書に修正箇所の情報がなければ、修正稿の中から自分で探さなければならず、確認の負荷が大きくなります。
修正箇所はページ番号・行番号・該当文の引用を使って明示します。「p.5, lines 12-15に以下の文を追加しました」という形で示すと、査読者は迷わず確認できます。修正した事実だけでなく、「確認できる状態にする」ことがResponseの役割の一つです。
3. 同意できないコメントを「無視・回避」するパターン
査読コメントのすべてに同意する必要はありません。しかし、同意できない場合の対応を誤ると、問題が残ったまま次のラウンドに進むことになります。
「検討しましたが、現状のままとします」という返答は、理由が伝わりません。査読者は修正を強制しているわけではなく、「なぜ対応しないのか」の論拠を求めています。根拠なく回避すると、次の査読ラウンドで同じ指摘が繰り返されることがあります。
不同意を伝える場合は、研究の目的・スコープ・方法論の観点から、なぜ対応しないかを説明します。「この研究では〇〇を目的としているため、ご提案の方法は別の研究課題に相当します」という形で根拠を示すと、対話として機能します。
4. 「全部に同じ熱量で答える」パターン
査読コメントには、論文の根幹に関わる指摘と、表現や体裁に関する軽微な指摘が混在しています。これらを同じ分量・同じ深さで処理すると、Responseの重心がぼやけます。
査読者が優先的に確認しているのは、「論文の結論に関わる問題が解決されたかどうか」です。Abstractや主張に関わる指摘、実験設計に関わる指摘、Figure解釈に関わる指摘は優先度が高く、これらへの回答が薄いと、軽微な指摘への丁寧な対応があっても査読者の納得につながりにくいです。
前回の第7回で触れたように、査読コメントを「対応できるもの・対応が難しいもの・質問が必要なもの」に分解する習慣をつけておくと、Responseの優先度の設計にも直結します。どのコメントが「論文の結論」に関わるかを見極めることが、Response全体の設計を左右します。
5. 「査読者が間違っている」前提で書くパターン
不同意の場合に、査読者の理解不足を前面に出す書き方は、対話を壊しやすいです。
"The reviewer seems to have misunderstood our approach." という表現は、事実として正確な場合でも、査読者との関係においてはリスクがあります。査読者は自分の理解を否定されたと感じ、次のラウンドでより厳しい立場を取る可能性があります。
有効なのは、「論文の説明が足りなかった」という立場から書くことです。「この点について説明が不十分だったため、〇〇を追記しました」という形にすると、査読者の指摘を出発点として自分の主張を再説明できます。結果として伝わる内容は同じでも、対話として機能するかどうかが変わります。
6. 本文に反映されないパターン
査読コメントへの対応をきっかけに、新しい説明や主張をResponseの中だけに書いてしまうパターンがあります。
査読者とEditorは、Responseに書かれた内容を本文で確認しようとします。Responseに「この研究では〇〇も検討しています」と書いてあっても、本文のどこにもその記述がなければ、確認できません。Response・修正本文・Figure/Tableの整合性が取れていないと、査読者は強い違和感を持ちます。
Responseに書くことは、対応する修正が本文に反映されていて初めて意味をなします。Responseを書き終えたら、本文との整合性を確認する手順を習慣にしておくと、このパターンを防ぎやすくなります。
まとめ
Response to Reviewersは「修正の報告書」ではなく、「対話の文書」です。今回挙げた失敗パターンの多くは、「査読者が何を確認したいか」を意識していないところから生まれています。
Responseを書き終えたら、査読者の立場で読み返してみてください。修正の根拠が伝わっているか、修正箇所が確認できる状態になっているか、整合性が取れているか。この三点を確認する習慣が、Responseの質を上げます。

