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日本の研究者のための英語論文の伝え方 ⑨AIで英語を書くと何が起きるか

  • 6月9日
  • 読了時間: 4分

AIを使って英語論文を書いたり、文章を整えたりすることは、今や珍しくありません。問題は「使うかどうか」ではなく、「何が起きているかを理解して使っているかどうか」です。この記事では、AI使用時に実際に起きていることを説明します。



0. AIで英語を書くことへの誤解


AIで英語を書くとき、次のような思い込みが起きやすいです。


  • 「AIが書いた英語は正しい」

  • 「英語が流暢になれば、論文として通用する」

  • 「AIに任せれば校正不要」


実際には、AIは「流暢な英語」を生成しますが、「論文として正確な英語」を保証するわけではありません。このズレは、これまでのシリーズで扱ってきた「伝わらない理由」とも深く関係しています。流暢さと正確さは別の問題です。



1. AIが得意なことと苦手なこと


AIが得意なのは、文法的に自然な文を生成すること、表現を言い換えること、文章を滑らかにすることです。読みやすい英語を素早く生成する能力は高いです。


一方で苦手なのは、研究の文脈を正確に反映すること、専門用語を適切に使い分けること、主張の論理的整合性を保つことです。AIは「それらしい文」を生成しますが、「その研究において正しい文」を生成するとは限りません。


特に、新規性や研究の位置づけのような「何を主張すべきか」を判断する部分は、AIが最も苦手な領域です。これはこのシリーズの①から⑧で扱ってきた核心とも重なります。英語表現を改善することと、研究として何を主張するかを決めることは、まったく別の作業です。



2. 「それらしい英語」が論文で起こす問題


AIが生成する文の問題は、「間違っている」ことよりも「ずれている」ことにあります。


まず起きやすいのが、専門用語の意味のずれです。AIは文脈から「よく使われる語」を選びますが、その分野で厳密に使われる語と一致するとは限りません。一般的には正しく見える語が、特定の研究領域では別の意味を持つことがあります。


もう一つは、主張の強さの変換です。AIは文章を「自然に」整える過程で、著者が意図した慎重な表現を断定的な表現に変えてしまうことがあります。


たとえば、次のような変換が起きます。


Before(著者が書いた文)

"This result may suggest that exposure to the compound affects metabolic pathways."


After(AI修正後)

"This result demonstrates that exposure to the compound affects metabolic pathways."


「示唆するかもしれない」が「示している」に変わっています。英語としての自然さは上がっていますが、主張の強さは大きく変わっています。著者本人が気づかないまま提出してしまうケースもあります。査読者には「英語は自然だが、主張が不正確」という印象を与えやすく、この種のズレは英文校正では直りません。



3. 事実レベルで起きる問題:ハルシネーション


ここまでは「意味のズレ」の話でした。さらにAIでは、「存在しない情報そのもの」が生成される問題もあります。これをhallucination(ハルシネーション)と呼びます。


よく知られているのが、参考文献の問題です。AIは存在しない論文のタイトル・著者名・掲載誌を、もっともらしい形で生成することがあります。一見正しそうに見えるため、著者が気づかずに提出してしまうケースがあります。


問題は参考文献だけにとどまりません。実験結果・数値・手法の説明を「それらしく」補完してしまう場合もあります。ハルシネーションは本文の主張レベルでも起きるため、AIが関与した箇所は事実確認を著者自身が行う必要があります。査読・編集段階で発覚すると、論文の信頼性に関わる問題になります。



4. 「AIが書いた」ではなく「誰が責任を負うか」


AIが生成した文章を論文に使う場合、最終的に問われるのは「AIが書いたかどうか」ではなく「誰が内容の正確性に責任を負うか」です。


AIは著者になれません。論文の内容・正確性の責任は、最終的にすべて著者が負います。査読者やEditorが確認しているのも、「AIを使ったかどうか」ではなく「内容が正確かどうか」です。


AI使用の開示を求めるジャーナルが増えている傾向があります。ただし、ポリシーの詳細はジャーナルごとに異なり、日々変化しています。具体的な線引きについては過去記事「研究者のための実務ガイド③ 論文執筆とAI」も参考にしてください。


まとめ


AIは「流暢な英語」を生成しますが、「論文として正確な英語」を保証しません。「それらしい英語」と「正確な英語」のズレは、査読の評価に直結します。ハルシネーションと著者責任の問題は、AIツールを使うすべての研究者に関係します。


AIを使うなら、何が起きているかを理解してから使う。それが論文執筆における現実的な姿勢です。

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