日本の研究者のための英語論文の伝え方②日本語の論理と英語の論理の違い
- 4月28日
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文法的に正しいのに、なぜかぎこちない英語論文があります。単語を変えても、表現を整えても、読みにくさが残る。そんな論文に共通しているのは、情報の並べ方の問題です。
英語と日本語では、「何をいつ言うか」の前提がそもそも違います。今回はその違いを、実際の論文の書き方に引きつけて説明します。
日本語の習慣が英語論文に持ち込まれるとき
日本語では、背景や経緯を積み上げてから結論を述べるのが自然な流れです。読み手は最後まで読んで全体を理解する、という前提で文章が組み立てられています。
この習慣をそのまま英語論文に持ち込むと、主張がなかなか出てこない構成になります。書き方が悪いというより、情報を置く順番の前提が違う。この違いが、英語論文の読みやすさに直結します。
「主張が先、根拠が後」という英語の原則
英語のアカデミックライティングでは、最初に「何が言いたいか」を置きます。根拠・データ・考察はその後に続きます。
編集者や査読者は大量の原稿を読んでいます。論旨が早い段階で見えないと、読み手の負荷は高くなります。この原則は英語論文に限らず、英語のビジネス文書やメールにも共通する発想です。
起承転結を英語論文に持ち込むと何が起きるか
起承転結は「転」で意外性を入れ、「結」で着地する構造です。日本語の文章としては自然ですが、この構成では主張の核心が中盤以降に現れます。英語の読者には「何を主張しているのかわからない」という印象を与えやすくなります。
注意が必要なのは、IMRADの形式を守っていても、各セクションの内部で起承転結を繰り返してしまうケースです。論文全体の構成は正しくても、個々の段落やセクションの書き出しで同じ問題が起きます。次の例で具体的に確認します。
文章全体から段落レベルまで同じ原則が働く
この原則は、論文全体の構成から段落レベルまで一貫して働きます。
文章全体の構造
論文全体として「主張→根拠→意義」の順で組み立てます。たとえばAbstractでも、結論や意義を前半に置くのが英語論文の基本です。
段落レベルの構造
各段落の最初の一文(トピックセンテンス)で、「この段落では何を言うか」を示します。読者は「次に何が来るか」を予測しながら読む設計です。
日本語の文章ではこの約束が明示されないことが多く、それが「文法は正しいのに読みにくい」の正体のひとつです。
トピックセンテンスのイメージは以下の通りです。
【日本語的表現の例】
本実験の結果については、以下の点が確認された。
【英語論文として求められる書き方】
These findings indicate that temperature significantly affects reaction rate.
前者は「これから説明する」という予告にとどまっています。後者は最初の一文で主張を示しています。この一文の違いが、段落の読みやすさを大きく左右します。
Discussionの書き出しでも比べてみます。
【日本語的表現の例】(結論が最後)
本研究では、AとBの関係をXという手法で検討した。その結果、Cという傾向が確認された。Dについても同様の傾向が見られた。これらの結果は、EがFに影響を与える可能性を示唆していると考えられる。
【英語論文として求められる書き方】(主張が先)
These results suggest that E plays a significant role in F. Using X, we demonstrated that A–B interactions are influenced by both C and D, extending current understanding of this relationship.
「示唆していると考えられる」を"suggest"に置き換えるだけでは変わりません。語彙を変えても、主張が最後に出てくる構造のままでは同じ問題が残ります。伝わらないのは語彙の問題ではなく、主張の位置の問題です。
まとめ
「主張が先、根拠が後」は英語論文の特殊なルールではなく、英語の読者との共通前提です。この前提を意識せずに書くと、正しい英語でも伝わりにくくなります。
そしてこの原則が最も凝縮されて現れるのが、タイトルとアブストラクトです。次回は、論文の中で最初に読まれるこの部分の設計が、査読者や読者の印象をどう左右するかを見ていきます。


