top of page

日本の研究者のための英語論文の伝え方⑦査読コメントが厳しく見える理由

  • 5月26日
  • 読了時間: 5分

査読コメントを読んで、気持ちが落ち込んだ経験がある方は少なくないと思います。この記事では、査読コメントがなぜ厳しく見えるのか、その背景と読み方の実務的なポイントを説明します。



査読コメントで起きやすい誤読


査読コメントを受け取ったとき、次のような受け取り方をしてしまうことがあります。


  • 「全面否定された」と感じる

  • 「査読者が攻撃的だ」と受け取る

  • 「全部直さなければ通らない」と思い込む


いずれも自然な反応ですが、実際には査読コメントは、「問題点を優先的に並べるもの」であることが多いです。査読者が研究そのものを否定しているわけではなく、指摘すべき点を列挙するという役割の中で書いています。この前提を持っておくと、コメントの読み方が変わります。


1. 査読コメントはなぜ厳しく見えるのか


査読者の役割は、論文の問題点を指摘することです。良い点を丁寧に書く義務はなく、多くの場合、肯定的な評価は短く済ませて指摘事項に集中します。結果として、否定的な表現が並ぶコメントになりやすいです。


これは文体と役割の問題です。日本語の「批判」には、相手を攻撃するニュアンスが含まれることがあります。しかし英語の "criticism" は、分析的な指摘を指すことが多く、感情的な含意は薄いです。この言葉のズレが、コメントを必要以上に厳しく感じさせる一因です。


否定的な表現が並んでいても、それは研究全体の否定ではありません。査読者は、多くの場合「修正によって改善できる」という前提でコメントを書いています。



2. コメントの構造を知る


読結果にはいくつかの種類があります。Accept、Major Revision、Minor Revision、Rejectです。このうち最も判断が難しいのがMajor Revisionで、コメントの量が多く厳しく見えることがあります。


Major Revisionは、多くの場合「修正の余地がある」というシグナルです。リジェクトではなく、対応次第で掲載につながる可能性があります。コメントの量が多く厳しく見えても、Major Revisionである限り、査読者は少なくとも修正可能性を含めて論文を検討しています。


コメントの中にも優先度があります。必須の修正、推奨レベルの提案、確認のための質問、の三つに大別できます。「厳しいコメント=リジェクト」ではなく、コメント量が多い場合は、それだけ具体的に検討された可能性があります。



3. よく出てくる表現のパターンと読み方


査読コメントには、繰り返し登場する表現があります。表現の裏にある意図を知っておくと、コメントの読み方が変わります。


It is unclear why…

「なぜそうなのか説明が足りない」という指摘です。攻撃ではなく、読者として理解できなかった箇所を示しています。説明を補うことで対応できます。


The authors claim… however…

主張と根拠のズレを指摘しています。「主張が強すぎる」あるいは「データが主張を支えていない」という読み方が多いです。


This section needs significant revision

修正が必要な範囲を示しているだけで、全否定ではありません。「どこを直せばよいか」を教えてくれているコメントとして読めます。


I am not convinced that…

査読者自身が納得できていない、という表現です。論文の説明が不足している場合もありますが、査読者の専門領域と論文の内容がずれている場合もあります。「自分の書き方が悪い」と決めつける前に、何が伝わっていないかを考えます。


査読コメントは、「どう書かれているか」より「何を求めているか」で読むことが重要です。



4. 厳しさの背景にあるもの


ここまではコメントの「書かれ方」の話でした。では、なぜそのような文体になりやすいのでしょうか。背景には、査読という制度の運用があります。


査読者は無償で、多くの場合匿名で作業しています。時間的な制約の中で複数の論文を読むため、コメントの説明は省略されがちです。「なぜそう思うか」より「何が問題か」を優先して書くことになります。


また、英語を母語としない査読者のコメントは、文体が硬くなりやすい傾向があります。意図せず攻撃的に見える表現になっていても、内容自体は建設的な指摘であることも多いです。


査読者の専門領域と論文の内容が完全に一致しているとは限りません。専門外の部分についてはコメントが表面的になることもあります。


コメントの「温度」より「内容」を読む習慣をつけておくと、こうした状況でも冷静に対応しやすくなります。



5. 読み方の実務的なポイント


査読コメントを受け取ったら、まず一度通読します。感情的な反応が出たとしても、その日のうちに対応を決めようとしないことが大切です。翌日もう一度読むと、同じコメントがかなり違って見えることがあります。


次に、コメントを「要求していること」に分解します。一つのコメントの中に複数の指摘が混在していることがあるため、箇条書きに分けると整理しやすいです。


分解したら、対応できるもの・対応が難しいもの・意図を確認する必要があるものの三つに分けます。「全部直さなければならない」という思い込みを外すと、対応の優先度が見えてきます。


査読コメントを「読む」ことと、Response to Reviewersとして「答える」ことは別のスキルです。この記事では読み方に絞りましたが、答え方については次の第8回で取り上げます。


まとめ


査読コメントの「厳しさ」は、文体・役割・制度の三つから生まれています。査読者が研究を否定しているわけではなく、問題点を優先的に列挙する書き方がそう見せている場合がほとんどです。


コメントの表現に引きずられず、「何を求めているか」を読むことが、対応の精度を上げる第一歩になります。


bottom of page