日本の研究者のための英語論文の伝え方①英語論文が「伝わらない」とき何が起きているのか
- 4月27日
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英語で論文を書いた。文法もチェックした。それでも引用されない、反応がない。そんな経験をお持ちの方は少なくないと思います。
「やはり英語力の問題か」と感じるかもしれません。でも実際には、文法的に正確な論文でも引用されないことはあります。逆に、多少ぎこちない英語でも広く読まれる論文はあります。つまり「引用される」かどうかは、英語力だけでは説明できません。
では、何が起きているのでしょうか。今回は「伝わらない」の構造を、3つの層に分けて見ていきます。
なお、「そもそも読まれない」問題、つまりタイトルやアブストラクト、キーワードの設計によって検索に引っかからない問題は、別のメカニズムです。そちらは本シリーズの第3回で触れる予定です。こちらの記事では「読んでもらえたのに引用されない」、つまりArgumentが伝わらない問題に絞って解説していきます。
「伝わらない」には3つの層がある
層① 言語の問題(表層)
文法のミスや不自然な言い回しです。これは確かに問題ですが、3つの中では最も対処しやすい層です。ネイティブチェックやAIツールでかなりカバーできます。多くの研究者が「英語の問題」と感じているのはこの層ですが、ここだけ直しても引用数が増えないケースが多くあります。
層② 構造の問題(中層)
「何を言いたいか」は書いてある。でも「なぜそれが重要か」が伝わっていない状態です。IMRAD形式(導入・方法・結果・考察)は守っているのに、読んでいて論旨が見えにくい論文がこれにあたります。
よくあるパターンは、結論が最後にだけ出てくる構成です。日本語の文章では自然な流れですが、英語論文では「主張はどこ?」と読者が迷う原因になります。
層③ 文脈の問題(深層)
研究の中身は確かなのに、それが国際的な議論のどこに位置するかが示されていない状態です。「この分野では当然の前提」として書いたことが、海外の読者には共有されていないこともあります。
ここで重要なのは、「日本のローカルな研究テーマはグローバルに通じない」ということではありません。ローカルな強みをグローバルな議論に接続する設計が抜けている、ということです。研究の価値は十分にある。ただ、その価値を国際的な文脈に翻訳する作業が必要です。
日本人研究者の傾向
3つの層を踏まえた上で、日本人研究者の論文に出やすい傾向を確認します(個人差や分野による違いもあり、「自分はまったくあてはまらないよ」とおっしゃる方もいると思います。あくまで全体的傾向としてとらえていただくようお願いします)。
ひとつは「謙虚な書き方の罠」です。「示唆される」「可能性がある」という表現は、日本語論文では丁寧さや誠実さを示します。しかし英語論文では、主張が弱い・自信がないと受け取られることがあります。
もうひとつは、Introductionに力を入れすぎて主張が遅れるパターンです。背景をていねいに説明しているうちに、読者は「で、何が言いたいの?」という状態になります。
データが豊富なのに「なぜこれが重要か」が薄い論文も同様です。実験の記述が丁寧であることと、読者へのメッセージが明確であることは、別の話です。
想定読者が異なると、作法も変わる
こうした違いが生まれる背景には、想定している読者の違いがあります。日本語論文は同じ専門領域の国内研究者を想定して書かれることが多い一方、英語論文は分野をまたぐ国際的な読者に届く可能性があります。
この前提の違いが、以下のような作法の差につながります。
日本語論文の作法 | 英語論文の期待値 | |
主張の強度 | 「示唆される」 「可能性がある」 | "This study demonstrates..." |
Introductionの役割 | 先行研究の網羅的な レビュー | 「なぜ今これが必要か」の論証 |
結論の位置 | 最後に収束 | 最初に提示、最後に確認 |
どちらの作法が優れているという話ではありません。想定読者が異なれば、設計も変わります。
まとめ
「引用されない」の原因は英語力だけではなく、コミュニケーションの設計にあることが多いです。特に層②(構造)と層③(文脈)は、意識的に学ばないと改善しにくい部分です。
次回は「日本語の論理と英語の論理の違い」を取り上げます。情報の並べ方の前提がそもそも異なることが「伝わらない」の根本にどうつながるかを見ていきます。
