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日本の研究者のための英語論文の伝え方⑤「新規性がない」と言われるときに起きていること

  • 5 日前
  • 読了時間: 5分

英文校正を済ませ、文法的には問題ないはずなのに、査読コメントに"新規性がない(lacks novelty)" や "独創性に欠ける(not sufficiently original)" と書かれて戻ってくる。そういう経験をした方に向けて、この記事では「見せ方」の問題に絞って説明します。研究設計そのものの新規性が問われているケースは別の話であり、ここでは扱いません。


前回の第4回で触れたように、英文校正は言語の問題を解決しますが、「何が新しいのか」を伝える構造は校正では直りません。その構造の問題が最も集中して現れるのが、Introductionです。



1. 「新規性がない」という指摘の正体


"新規性がない(lacks novelty)" という指摘は、なぜ起きるのでしょうか。研究内容が本当に新しくないケースもありますが、多くの場合、原因は別のところにあります。査読者は論文の記述から新規性を判断するため、研究と論文の間にズレがあると、新しい研究が「新しく見えない論文」になります。このズレが、"lacks novelty" の指摘として現れます。


査読者が "novelty" を判断するとき、見ているのは研究内容そのものだけではありません。「この研究が既存の知見のどこに位置づけられるのか」が、論文の記述から読み取れるかどうかを確認しています。


つまり、新規性の判定は論文の文章から行われます。どれだけ独創的な実験をしていても、その新しさが記述として論文に現れていなければ、査読者には見えません。「研究は新しいが、論文が新しさを伝えていない」という状態が、この指摘の多くの背景にあります。


このことは、裏返すと一つの可能性を示しています。研究内容を変えなくても、書き方を変えることで評価が変わる場合があるということです。


2. 日本人研究者が陥りやすいパターン


よく見られるパターンが二つあります。


一つ目は、研究の新しさをResultsに置いてしまうことです。「新しい発見はResultsに書く」という意識は自然ですが、査読者はIntroductionの時点で「この研究は何が新しいのか」を把握しようとしています。Introductionで新規性が見えないまま読み進められると、Resultsの発見も「予想の範囲内」として受け取られやすくなります。


二つ目は、既存研究との差分を明示しない書き方です。日本語の学術文化には、自分の研究を前面に押し出すことへの抵抗感があります。「本研究では〇〇を検討した」と書いて、「それが先行研究と何が違うのか」を書かない。この慣習が英語論文にそのまま持ち込まれることがあります。


英語論文では、自分の貢献を明示することは「自慢」ではなく、読者への道案内です。「この研究はここが新しい」と書くことで、査読者は論文全体をどう読めばよいかを理解できます。意識の切り替えとして、「謙遜して書かない」ではなく「読者のために地図を渡す」と捉えると、書きやすくなります。



3. 査読者はIntroductionのどこを見ているか


一般的に、査読者はIntroductionの末尾付近に「この論文の貢献の明示」を探す傾向があります。全文を精読する前に、その箇所が論文全体の地図として機能するからです。


多くの英語論文では、Introductionの最後の段落に次のような表現が置かれています。


The main contributions of this paper are as follows.
To our knowledge, this is the first study to examine…

こうした表現は定型句ではありますが、査読者にとっては論文の位置づけを確認するための手がかりになります。この箇所に何も書かれていない場合、貢献が存在しないと受け取られるリスクがあります。



4. Research Gap → Contribution の構造で書く


新規性を伝えるIntroductionには、おおむね次の流れがあります。


Research Gap(先行研究で未解決の問いを示す)

Research Question(自分の研究が答えようとする問いを示す)

Contribution(この研究が何をもたらすかを示す)


この流れの中で、特に差が出やすいのがGapの書き方です。たとえば環境科学系の場合、次のように変わります。


Before(よく見られる書き方)

The relationship between traffic-related air pollutants and respiratory health indicators has not been studied.

(参考訳:交通由来の大気汚染物質と呼吸器の健康指標との関連性については、これまで研究されていません)


After(Gapが伝わる書き方)

While the association between particulate matter and respiratory outcomes has been extensively documented, the differential effects of traffic-related nitrogen oxides on vulnerable populations in high-density urban areas remain poorly understood.

(参考訳:粒子状物質と呼吸器系の健康影響との関連については多くの研究で報告されていますが、人口密度の高い都市部における交通由来の窒素酸化物が、健康リスクの高い人々に対して及ぼす異なる影響については、依然として十分に解明されていません)


Beforeは「研究されていない」という事実の提示にとどまっています。

Afterは「何が分かっていて、何が残されているか」を示しています。


その違いがなぜ重要かというと、一般に、査読者が知りたいのは「空白の事実」よりも「なぜその問いが重要なのか」とされているからです。残された問いとして提示することで、研究の必要性が自然に伝わります。


Contributionは、動詞で始まる箇条書きで3点以内にまとめると読みやすくなります。


The contributions of this study are threefold: (1) We identify… (2) We demonstrate… (3) We provide…

5. 投稿前・再投稿前の自己チェック


「新規性がない」と指摘された後、多くの方はまず実験やデータを見直そうとします。しかし最初に確認すべきは、Introductionです


次の3点の確認が必要です。


  • IntroductionにResearch Gapが明示されているか

  • IntroductionにContributionの箇条書きがあるか

  • AbstractにContributionが一文でも入っているか


これらが揃っていない場合、査読者には研究の新規性が見えていない可能性があります。再投稿の際も、Resultsを書き直す前にIntroductionを見直すことが、最初の一手として有効です。


「新規性がない」という指摘を受け取ったとき、研究の中身より先に、論文が読者に地図を渡せているかどうかを確認してみてください。

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