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国際共同研究はどこから始まる? 研究ネットワークの形成と継続

5 時間前
読了時間: 8分

2026年3月に閣議決定された第7期科学技術・イノベーション基本計画では、国際共同研究の拡充や研究者の国際的な交流を通じた「国際頭脳循環」の推進が重視されています。


国際共同研究を進めるには、海外の研究者とのつながりが欠かせません。しかし、国際学会で知り合ったり、海外の研究機関に滞在したりすることで交流の機会を得られても、その関係を実際の共同研究に発展させ、長く維持することは容易ではありません。


今回は、国際共同研究のネットワークがどのように生まれ、継続的な研究活動へと発展していくのか、国内外の調査や研究支援の取り組みをもとに考えます。



国際共同研究のきっかけはどこにあるのか?


国際共同研究というと、大学間の協定や大型研究プロジェクトを思い浮かべるかもしれません。しかし、共同研究の出発点は、研究者同士の個人的なつながりであることも少なくありません。


英国の4つの学術アカデミーが2017年に発表した国際共同研究に関する調査報告書(The role of international collaboration and mobility in research)では、フェローや研究助成金受給者1,286人を対象に、国際共同研究の成立経緯などを調べています。


その結果、共同研究が始まったきっかけとして、73%が相手の研究内容を知っていたこと、65%が人的なつながり、62%が学会やイベントでの出会いを挙げました。


これは英国の特定の研究者集団を対象とした調査ですが、国際共同研究において、研究成果を通じて互いを知ることや、研究者間の交流が重要な役割を果たしていることがうかがえます。


近年はオンラインでの研究交流も容易になり、論文や研究データを通じて海外の研究者の活動を知る機会も増えています。しかし、研究に関心を持つ相手が見つかったとしても、そこから共同研究が始まるとは限りません。



出会いを実際の共同研究に発展させるには?


学会で研究内容について意見を交わし、連絡先を交換しても、その後に具体的なやり取りがなければ、関係はそこで途切れてしまいます。


共同研究に発展させるためには、互いの研究に関心を持つだけでなく、どのような課題に一緒に取り組めるのかを具体的に検討する必要があります。


例えば、一方が持つ研究手法をもう一方の研究対象に応用できないか、異なる地域のデータを比較できないか、双方の専門性を組み合わせることで新しい研究課題に取り組めないか、といった検討が考えられます。


最初から大規模なプロジェクトを立ち上げる必要はありません。研究データの比較や小規模な共同分析、研究会の共同開催など、実行可能な活動から始める方法もあります。


一方、研究を具体的に進める段階になると、役割分担や研究費の確保、研究データ・試料の取り扱い、研究成果の発表方法など、研究者間で調整すべき事項も増えてきます。必要に応じて、所属機関間で共同研究契約を締結することもあります。


研究者同士が研究内容について合意していても、所属機関の規定や国ごとの制度の違いによって、実施までに時間がかかる場合があります。


こうした問題に対応するには、研究者間のコミュニケーションに加え、大学の研究支援部門や契約担当者などの協力も重要になります。



継続する研究ネットワークへ


国際共同研究のネットワークを考えるうえで、もう一つ重要なのが、形成した関係をどのように維持するかという問題です。


日本学術振興会(JSPS)が公開している第4回JSPS-LEADSNET事業研究交流会のグループ討議概要では、海外で形成した研究ネットワークが、中心となる研究者の帰国後に先細りしてしまう事例が取り上げられています。また、特定の個人に依存するネットワークは、その人が活動を続けられなくなると維持が難しくなることも指摘されています。


国際共同研究には、時差や距離の問題に加え、研究者それぞれの所属機関での業務や研究計画があります。共同研究が一段落すると、次に会う機会や連絡を取る理由がなくなり、交流が徐々に減ってしまうことも考えられます。


関係を継続させるには、個人的な親交だけに頼らず、研究活動を通じて接点を持ち続ける工夫が必要です。例えば、定期的なオンライン研究会で互いの進捗を共有する、国際学会で共同セッションを企画する、次の共同研究に向けて新たな課題を検討するといった方法があります。


前述のJSPSの研究交流会でも、比較的少ない経費で実施できる方法として、国際会議のセッションを共同で開催し、参加者が持ち回りで運営する案が挙げられています。


研究ネットワークを維持するために、常に新しい共同研究プロジェクトを立ち上げる必要はありません。互いの研究の進展を知り、必要なときに相談や協力ができる関係を続けることも、次の共同研究につながる可能性があります。



研究者のつながりを支える大学の役割


こうした研究ネットワークの形成や継続を、研究者個人の努力だけに任せず、大学として支援する取り組みも進められています。


その一例が、大学の研究活動を専門的に支援するURA(University Research Administrator:リサーチ・アドミニストレーター)の存在です。


東京大学のURA制度では、研究資金の獲得支援に加え、研究者のマッチング、研究プロジェクトの企画立案、学内外の関係者との調整、プロジェクト開始後の進捗管理などが業務として示されています。


国際共同研究においては、海外の研究機関との契約や研究資金の取り扱いも重要な課題になります。


例えば、京都大学の総合研究推進本部では、Horizon Europeなど海外の研究費を獲得した際、海外の共同研究機関や資金提供団体との調整・手続きをURAが仲介しています。


また、科学技術振興機構(JST)の先端国際共同研究推進事業(ASPIRE)では、参加する日本側研究機関と海外の研究機関との間で国際共同研究契約を締結するよう求めており、知的財産権、守秘義務、研究成果の公表などについて、機関としての調整が必要になります。


このように、大学の研究支援部門は、研究者が共同研究を開始し、円滑に進めるための実務を担っています。ただし、支援体制や担当業務は大学によって異なります。


さらに、研究ネットワークの継続という観点からは、研究者が獲得した海外とのつながりを、次の研究活動に生かせるようにすることも考えられます。


例えば、海外の共同研究者との交流を続けるための研究会の開催支援や、次の共同研究に利用できる助成制度の紹介、若手研究者が既存の国際研究ネットワークに参加する機会の提供などです。


研究者が異動したり、研究プロジェクトが終了したりした後も、築かれた関係を次の研究につなげられるかどうかは、大学にとっても重要な課題といえるでしょう。



国際共同研究を支える制度


大学による支援とともに、国際共同研究や研究者交流を支援する公的な制度も整備されています。

JSTのASPIREは、海外の研究者との共同研究を通じて、国際的な研究ネットワークの構築と次世代研究者の育成を目指す事業です。


ASPIREでは、研究成果の創出に加えて、若手研究者の海外派遣や海外研究者の招へいなど、研究者間の継続的な交流を重視しています。


また、JSPSの二国間交流事業は、日本と海外の研究チームによる共同研究やセミナーを支援する制度です。個々の研究者間の交流を発展させ、研究チーム同士の継続的なネットワークを形成することを目指しています。


これらの制度は、国際共同研究の実施を支援するだけでなく、研究者間の関係を深め、その後も続く協力関係を育てる役割を担っています。


ただし、制度による支援には期間があります。研究プロジェクトの終了後も交流を続けるためには、研究者自身の取り組みに加え、研究機関による継続的な支援も求められます。



次世代の研究者へと広がるネットワーク


研究ネットワークを長期的に維持するには、共同研究を始めた研究者だけでなく、若手研究者や学生がその活動に参加できることも重要です。


2026年6月に開催されたASPIREバイオ分野合同シンポジウムでは、国際共同研究の成果発表に加え、17人の学生研究者による発表も行われました。


参加者からは、海外の研究機関への滞在を通じて新しい研究手法を学んだ経験や、国際学会で海外の研究者と再会し、交流を継続できた経験などが報告されています。


こうした交流は、若手研究者にとって自身の研究分野を広げる機会になるとともに、将来の共同研究相手と知り合うきっかけにもなります。


また、研究室の責任者同士の関係にとどまらず、若手研究者同士が直接つながることで、所属機関の異動や研究プロジェクトの終了後にも、交流が続く可能性があります。


大学が若手研究者の国際学会への参加や海外研究滞在を支援することは、研究者個人のキャリア形成だけでなく、将来の国際共同研究を支える人材とネットワークを育てることにもつながります。



研究者のつながりを、次の研究へ


国際共同研究のネットワークは、学会での出会いや海外研究滞在など、さまざまな機会から生まれます。しかし、出会いを実際の共同研究に発展させ、その関係を継続するには、研究者自身の取り組みと、それを支える研究環境の両方が必要です。


研究成果を論文として発表することも、海外の研究者に自身の研究を知ってもらう機会の一つです。公開された研究成果が、新たな研究者との交流や共同研究のきっかけになることも考えられます。


一方で、共同研究の成果は、一つの論文が出版された時点で終わるものとは限りません。その研究を通じて築かれた関係が、次の研究課題や新たな研究者間の交流へと発展していくことにも意義があります。


第7期科学技術・イノベーション基本計画が掲げる国際頭脳循環の推進を考えるうえでも、海外の研究者との交流機会を増やすことに加え、形成したネットワークをいかに継続し、次世代へと広げていくかが重要になるのではないでしょうか。

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