Horizon Europeのオープンアクセス要件とは?日本の研究者が知っておきたい研究成果公開のルール

日本は、EUの研究・イノベーション支援プログラム「Horizon Europe(ホライズン・ヨーロッパ)」に正式に準参加しました(2026年7月)。
Horizon Europeへの参加によって、日本の研究者にとって欧州を中心とした国際共同研究への道が広がります。一方、Horizon Europeの助成を受けた研究成果には、オープンアクセス(OA)や研究データ管理について、日本の研究者が普段利用している研究費とは異なるルールが適用されます。
特に注意したいのが「即時オープンアクセス」です。日本でも2025年度から一部の競争的研究費を対象に即時OA方針が始まりましたが、日本とHorizon Europeでは、同じ「即時OA」という言葉でも求められる対応は同じではありません。
本記事では、Horizon Europeの制度全体や応募方法ではなく、研究成果を発表・公開するときに研究者や大学の研究支援担当者が知っておきたいポイントを、日本の即時OA方針との違いも含めて解説します。
※本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。Horizon Europeおよび日本の即時OAに関する制度や運用は変更される可能性があります。実際の申請や成果公開にあたっては、最新の公式情報をご確認ください。
日本はHorizon EuropeのPillar IIに準参加
Horizon Europeは、EUが2021年から2027年に実施している研究・イノベーション支援プログラムです。日本はそのうち、健康、デジタル、気候、エネルギー、食料など幅広い社会課題を対象とする「Pillar II」に準参加しています。
日本とEUは2025年12月に準参加について実質合意し、移行措置により、日本の研究機関は2026年1月からPillar IIの対象公募に応募できるようになっていました。2026年7月30日に協定が署名され、日本は正式な準参加国となりました。
これにより、日本の研究者や研究機関はPillar IIにおいて、EU加盟国や他の準参加国の研究機関と同等の条件で国際共同研究に参加できます。コンソーシアムに加わるだけでなく、日本の機関がCoordinatorとしてプロジェクトを主導し、EUから直接研究費を受け取ることも可能です。
では、採択された研究プロジェクトから論文などの成果が生まれた場合、その成果はどのように公開する必要があるのでしょうか。
Horizon Europeの「即時オープンアクセス」とは
Horizon Europeでは、査読済みの学術出版物についてオープンアクセスが義務付けられています。
重要なのは、単に「誰でも無料で論文を読めるようにする」だけではないことです。Horizon Europeの助成を受けた研究成果については、出版された論文のVersion of Record(出版社版)またはAuthor Accepted Manuscript(AAM, 著者最終稿)を、遅くとも出版時までに信頼できるリポジトリ(trusted repository)へ登載し、即時にオープンアクセスとする必要があります。
学術論文については、原則として最新バージョンのCC BYまたは同等の権利を認めるライセンスが求められます。モノグラフなどの長文形式については、商用利用や改変を制限するライセンスも認められています。
リポジトリのメタデータについても条件があります。メタデータはCC0または同等の条件で公開し、著者、タイトル、出版日などの書誌情報に加え、Horizon Europeによる助成であること、プロジェクト名、略称、Grant Agreement番号、ライセンス情報などを記録することが求められます。
「trusted repository」とは?
ここでいうtrusted repositoryは、特定の一つのサービスを指す名称ではありません。
Horizon Europeでは、認証を受けたリポジトリや研究分野で広く利用されている分野別リポジトリのほか、一定の要件を備えた機関リポジトリや汎用リポジトリも利用できます。
欧州委員会の資料では、trusted repositoryに求められる主な特性として、コンテンツの完全性や真正性を確保する仕組み、永続的識別子(PID)の付与、標準化された機械可読メタデータ、中長期的な保存、明確な運用方針などが挙げられています。
そのため、日本の大学の機関リポジトリを利用する場合にも、Horizon Europeが求める条件を満たしているか確認する必要があります。
欧州委員会は、まず所属機関のリポジトリや研究分野に適した分野別リポジトリを検討することを案内しています。適切なリポジトリが見つからない場合には、欧州委員会が支援する汎用リポジトリ「Zenodo」を利用することもできます。
OAジャーナルで出版しても、リポジトリへの登載は必要
Horizon Europeでは、完全OAジャーナルで論文を出版した場合でも、それだけでOA義務への対応が完了するわけではありません。論文をOAで出版することと、Version of RecordまたはAAMをtrusted repositoryに登載することは、別の要件です。
これは、日本の即時OA方針に慣れている研究者にとっては特に注意したい点です。
なお、Horizon Europeの要件を満たす方法は一つではありません。
完全OAジャーナルで出版する方法のほか、出版先のポリシーや著者の権利を確認したうえでリポジトリによる即時OAを実現する方法もあります。所属大学が出版社と転換契約(Transformative Agreement)を結んでいる場合には、その契約を利用してOA出版できることもあります。
日本でも、JUSTICEが出版社と交渉した転換契約などを利用している大学があります。投稿前に、自分の所属機関が希望するジャーナルの転換契約に参加しているか確認してみるのもよいでしょう。
ただし、転換契約を利用できる場合でも、ライセンスの確認は必要です。契約やジャーナルによって利用できるCreative Commonsライセンスが異なる場合があるため、Horizon Europeが学術論文に原則として求めるCC BYまたは同等の条件を満たしているか確認しましょう。
Horizon Europeでは、出版費用を研究費から支出する場合、出版費用が適格な経費として認められるのは完全OAの出版媒体に限られ、ハイブリッド誌の出版費用は償還対象となりません。ただし、所属機関の転換契約などによってOA出版費用がカバーされ、Horizon Europeの研究費にその費用を請求しないケースとは分けて考える必要があります。
また、欧州委員会はHorizon Europeなどの助成を受けた研究者向けに、Open Research Europe(ORE)というOA出版プラットフォームも提供しています。Horizon Europeの助成を受ける機関は、費用を負担せずに研究成果を出版する選択肢として利用できます。
Horizon Europeの成果を公開する際には、特定の出版社や出版モデルだけでなく、こうした複数の選択肢から、要件を満たす方法を検討することができます。
日本の「即時OA」とHorizon Europeの「即時OA」は何が違う?
日本でも、2025年度以降に新規公募される一部の競争的研究費について、学術論文等の即時OAが求められるようになりました。
対象となるのは、科研費、JSTの戦略的創造研究推進事業や創発的研究支援事業、AMEDの戦略的創造研究推進事業など、国が指定する競争的研究費です。すべての公的研究費による研究成果が一律に対象となっているわけではありません。
日本とHorizon Europeの制度を比べると、同じ「即時OA」でも実際に求められる対応には違いがあります。
項目 | 日本の即時OA方針 | Horizon Europe |
対象となる出版物 | 対象研究費による査読済み学術論文 | 査読済み学術出版物。モノグラフなども含む |
公開時期 | 掲載後即時。困難な場合の取り扱いあり | 遅くとも出版時までにリポジトリへ登載し、即時OA |
ライセンス | 当面の間、無料でアクセスできれば対応とみなす運用 | 学術論文は原則CC BY |
リポジトリ登載 | すでにOAの場合などは必須ではない | OA出版の場合もtrusted repositoryへの登載が必要 |
メタデータ等 | NII RDC等での検索可能性を重視 | CC0、助成情報、永続的識別子などの要件あり |
※日本の即時OA方針では、査読済み学術論文に加えて、その根拠データも対象となります。研究データについては対象範囲や考え方がHorizon Europeとは異なるため、後段で別に説明します。
日本の方針については、いくつか補足が必要です。
まず「即時」の扱いです。基本方針では学術雑誌への掲載後、即時に機関リポジトリ等へ掲載することが原則とされています。一方、具体的な運用では出版社のポリシーなどによって即時公開が困難な場合の取り扱いも設けられています。また、具体的方策では掲載後おおむね3か月程度での公開が望ましいという目安も示されています。
ライセンスについても、日本ではHorizon EuropeのようにCC BYを一律に要求する仕組みにはなっていません。出版社や学術雑誌のポリシーによってライセンス情報の明示が困難な場合があることから、当面の間、電子ジャーナル掲載後に即時に無料でアクセスできることをもって即時OAへの対応とみなす運用となっています。
もう一つ大きく異なるのが、リポジトリの位置付けです。
日本では、APCを支払ってOA出版するなど、電子ジャーナル上ですでにOAとなっている論文については、機関リポジトリで重ねて公開することは必須ではありません。
一方、Horizon EuropeではOAジャーナルで出版した場合でも、trusted repositoryへの登載が必要です。
つまり、日本の即時OA要件を満たしているからといって、Horizon EuropeのOA要件にもそのまま対応できているとは限りません。
科研費など日本の対象研究費とHorizon Europeの双方による成果であれば、それぞれの助成条件を確認し、両方の要件を満たす形で成果を公開する必要があります。
Horizon EuropeへのOA対応は「投稿前」から始まる
Horizon EuropeのOA要件について、論文が出版されてから対応すればよいと考えるのは危険です。
投稿先や出版契約によっては、論文が出版された後では必要な対応ができなくなる可能性があるからです。
Horizon Europeでは、助成を受ける機関(beneficiary)が、OA義務を履行するために必要な知的財産権を保持することが求められています。
そのため、購読型ジャーナルなどへ投稿する場合には、AAMを遅くとも出版時までにCC BYでリポジトリ公開できるか、著者側にそのために必要な権利が残るかを、投稿や出版契約の前に確認することが重要です。
研究成果が論文になってから慌てて確認するのではなく、次のような時間軸で考えると分かりやすいでしょう。
執筆・投稿前
投稿先のOAポリシーを確認します。
完全OAジャーナルを利用するのか、所属機関の転換契約を利用できるのか、購読型ジャーナル等に投稿してリポジトリによる即時OAに対応するのかを検討します。
転換契約を利用する場合も、対象誌や適用条件だけでなく、選択するライセンスがHorizon Europeの要件を満たすか確認します。
購読型ジャーナル等の場合には、必要な権利を著者側で保持できるかも確認します。
論文の謝辞等には、Horizon Europeから助成を受けたことが分かるよう、プロジェクト名、略称、Grant Agreement番号など必要な助成情報を記載します。
採択・出版時
適切なライセンスが付与されていることを確認し、遅くとも出版時までにVersion of RecordまたはAAMをtrusted repositoryへ登載して、即時にアクセスできる状態にします。
リポジトリ登載時
書誌情報だけでなく、Horizon Europeの助成情報、ライセンス、永続的識別子など、必要なメタデータが登録されていることを確認します。
投稿先を考える際には、次のような経路を想定できます。
完全OAジャーナルを利用する→ ライセンスと出版条件を確認→ trusted repositoryにも登載
所属機関の転換契約を利用する→ 対象誌と適用条件を確認→ CC BY等、Horizon Europeの要件を満たすライセンスを選択→ OA出版→ trusted repositoryにも登載
購読型ジャーナル等を利用する→ 即時OAに必要な権利を保持できるか確認→ Version of RecordまたはAAMを遅くとも出版時までにtrusted repositoryで公開
Open Research Europeを利用する→ Horizon Europeの成果を費用負担なくOAで出版→ 出版された成果はZenodoに保存されるため、リポジトリ登載の要件も満たされます
どの経路を選ぶ場合でも、投稿する前にHorizon Europeの要件を満たせるか確認しておくことが重要です。
研究データについては、論文とは分けて考える
Horizon Europeでは、学術出版物だけでなく研究データについてもOpen Scienceへの対応が求められます。
研究データを生成または再利用するプロジェクトでは、Data Management Plan(DMP)を作成し、研究データをFAIR原則、すなわちFindable(見つけやすさ)、Accessible(アクセス可能性)、Interoperable(相互運用性)、Reusable(再利用性)に沿って管理することが求められます。
ここで注意したいのが、日本の即時OA方針における「根拠データ」との違いです。
日本の即時OA方針が対象とする根拠データは、掲載された学術論文の透明性や再現性を確保する観点から公表が求められるデータを指します。
一方、Horizon EuropeにおけるResearch Data Managementは、プロジェクトで生成・収集する研究データをどのように管理するかという、より広い研究活動の一部として位置付けられています。研究データについては「可能な限りオープンに、必要な限りクローズドに」という原則も採用されており、正当な理由がある場合にはアクセスを制限することもできます。
そのため、「日本の根拠データに対応していれば、Horizon Europeの研究データ要件にも対応できている」と単純に考えることはできません。
論文のOA対応とは別に、研究プロジェクトの早い段階からDMPや研究データの保存・共有方法を検討しておく必要があります。
日本の大学・研究機関は何を確認しておくべきか
Horizon Europeへの日本の準参加によって、こうした対応は研究者個人だけの問題ではなくなります。研究者が論文を投稿する段階で、図書館やURA、研究推進部門などにOAや研究データ管理について相談するケースも増えていくことが考えられます。
大学や研究機関では、研究者が投稿先を選ぶ段階でHorizon EuropeのOA要件を確認できるか、所属機関の転換契約を案内できるか、ライセンスや権利保持について支援できるか、といった点を確認しておくことが重要です。
機関リポジトリについても、論文を登載できれば十分とは限りません。永続的識別子や標準化された機械可読メタデータ、中長期的な保存など、trusted repositoryに求められる特性を備えているかを確認する必要があります。
あわせて、Horizon Europeの助成情報やライセンスなどを適切にメタデータとして記録できるか、機関リポジトリが適さない場合には分野別リポジトリやZenodoなどの選択肢を研究者に案内できるかという視点も必要です。
研究データについては、DMPの作成やデータの保存・公開について、研究者がどこに相談できるのかを明確にしておくことも求められます。
Horizon Europeへの準参加は、日本の研究者が利用できる研究費が増えるというだけの話ではありません。研究成果の公開についても、これまでとは異なるルールへの対応が必要になります。
研究プロジェクトが始まってから、あるいは論文が採択されてから初めてOA要件を確認するのではなく、研究計画や投稿先を検討する段階から、研究者と研究支援部門が必要な条件を確認しておくことが重要になりそうです。
参考情報
本記事は2026年8月時点の情報に基づいています。特に日本の即時OA方針については「当面の間」とされている取り扱いも含まれており、今後変更される可能性があります。
最新情報については、以下の一次情報をご確認ください。
内閣府「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針、及び学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針の実施にあたっての具体的方策に関するFAQ」
European Commission「Horizon Europe Model Grant Agreement」
European Research Executive Agency「Open science」


