いまさら聞けない学術出版用語:Crossrefとは?DOIの裏側で何をしているのか

論文を読んでいると、https://doi.org/...というDOIをよく目にします。
いまさら聞けない学術出版用語シリーズ第1回「DOIとは? URLと何が違うのか」では、DOIは単なるWebアドレスではなく、研究成果を継続して識別するための仕組みだと紹介しました。
では、そのDOIは誰が登録しているのでしょうか。研究者自身がDOIの番号を作り、直接どこかに申請しているわけではありません。
DOIについて調べていると、そこでよく登場するのがCrossrefという名前です。
Crossrefとは?
Crossrefは、出版社や学協会、大学、研究助成機関などが参加する非営利の会員組織で、DOIのRegistration Agency(登録機関)の一つです。会員から研究成果のDOIとメタデータを受け取り、それらを共有することで、論文、著者、所属機関、引用、研究費などの研究情報を結び付ける基盤を提供しています。
つまり、CrossrefはDOIそのものではありません。
DOIを登録する仕組みを提供すると同時に、その研究成果についての情報を集め、研究情報流通の中で利用できるようにしている組織です。
Crossrefは「DOIを発行している会社」なのか
Crossrefについて、「DOIを発行している会社」と説明されることがあります。
完全に間違いというわけではありませんが、それだけではCrossrefの役割を十分に表していません。
CrossrefはDOI Foundationから認定されたRegistration Agency(登録機関、RA)の一つです。出版社や学協会などがCrossrefの会員になると、自分たちが出版するコンテンツについて、Crossref DOIとメタデータを登録できます。
ただし、DOIを扱うRegistration AgencyはCrossrefだけではありません。
第1回のDOI記事でも紹介したように、日本にはJapan Link Center(JaLC)があり、研究データなどで広く利用されるDataCiteもあります。
つまり、
DOI=Crossref
ではありません。
Crossrefは、DOI Systemの中で活動する複数のRegistration Agencyのひとつです。
出版社や学協会はCrossrefに何を登録しているのか
Crossrefへ登録するのは、DOIの文字列だけではありません。
研究成果についてのメタデータも一緒に登録します。
メタデータとは、その研究成果を説明する情報です。
たとえば、
タイトル
著者名
掲載誌
公開日
DOI
所属機関
ORCID iD
ROR ID
研究費情報
ライセンス
参考文献
要旨
などがあります。
登録できる項目や、どの項目が必須・推奨・任意なのかは、コンテンツの種類などによって異なります。
Crossrefは、DOIだけでなく、できるだけ充実したメタデータを登録することを会員に推奨しています。
ここで重要なのは、DOIが登録されていることと、その研究成果について豊かなメタデータが登録されていることは同じではないという点です。
同じようにDOIが付いている論文でも、ORCID、ROR、研究費、参考文献、ライセンスなど、Crossrefに登録されている情報の充実度には違いがあります。
前回の「PIDとは?」で紹介したように、識別子が存在するだけで研究情報が自動的につながるわけではありません。
研究成果についてどの情報がメタデータとして登録されているかが、その後の情報流通に関わってきます。
登録されたメタデータは、その後どう使われるのか
Crossrefに登録されたメタデータは、Crossrefの中だけに保存されているわけではありません。
CrossrefはREST APIを公開しており、登録されたメタデータを外部から検索・取得できます。APIを使うためにCrossref会員になる必要はなく、基本的な利用では登録も必要ありません。
そのため、出版社や学協会などがメタデータを登録する→ Crossrefを通じて共有される→ 検索、分析、研究支援などを行う外部のシステムが利用するという情報の流れが生まれます。
Crossrefから取得できる情報には、基本的な書誌情報だけでなく、登録されていればORCID iD、ROR ID、研究費情報、ライセンス、要旨、参考文献なども含まれます。
つまりCrossrefは、DOIをクリックしたときの「行き先」を支えるだけではありません。
研究成果についてのメタデータを、ほかのシステムが利用できる形で流通させる基盤でもあります。
こうしたメタデータや識別子が機械による研究情報処理にどのように使われるのかについては、「研究成果を機械が扱える形にするには」でも紹介しました。
参考文献はCrossrefでどうやって「引用関係」になるのか
Crossrefへ登録できるメタデータの一つに、参考文献があります。
論文Aの参考文献に論文Bが含まれているとします。
出版社などが論文Aの参考文献をCrossrefへ登録すると、Crossrefではその参考文献を既存のDOIなどと照合します。論文Bと正しくマッチングできれば、論文Aが論文Bを引用しているという関係を記録できます。
CrossrefのCited-byは、こうした引用関係を利用する仕組みです。
つまり、出版社が「この論文は35回引用されています」と引用回数だけをCrossrefへ申告しているわけではありません。
論文の参考文献として登録された情報を既存の研究成果と照合することで、引用関係が作られます。
Crossrefでは参考文献の登録を必須とはしていませんが、引用関係をより充実させるため、参考文献を登録することを強く推奨しています。
一方、参考文献がCrossrefへ登録されていなかったり、既存のDOIなどと正しくマッチングできなかったりすれば、その経路では引用関係を把握できません。
引用については、過去記事「研究者のための研究発信ガイド⑧引用されるとき、研究の何が使われているのか」でも、研究成果が後続研究に取り込まれるという別の側面から紹介しています。
Crossrefのメタデータは誰でも見られる?
Crossrefのメタデータの多くは、誰でも確認できます。
REST APIを利用すれば、大量のメタデータを検索・取得することもできます。また、コードを書かなければCrossrefの登録状況を確認できないわけではありません。その一例がParticipation Reportsです。
Participation Reportsでは、Crossref会員が登録しているメタデータについて、
References
Abstracts
ORCID iDs
Affiliations
ROR IDs
Funding information
License URLs
などの項目が、どの程度登録されているかを確認できます。レポートは無料で公開されており、誰でも見ることができます。
ここでわかるのは、同じようにDOIを登録している出版社やジャーナルでも、そのDOIに結び付けている情報の量は同じではないということです。
「DOIがあるかどうか」だけでなく、その研究成果についてどこまでメタデータが整備されているのかを見ることもできます。
日本ではJaLCがある。Crossrefとは何が違うのか
第1回のDOI記事では、日本のDOI登録機関としてJapan Link Center(JaLC)を紹介しました。
CrossrefとJaLCは、どちらもDOI Foundationから認定されたRAです。
ただし、同じ組織ではありません。
大づかみに整理すると、Crossrefは、世界各地の出版社、学協会、大学などが参加する国際的な非営利会員組織です。一方、JaLCは、日本の学術情報流通を主な対象として運営されるDOI登録機関です。
ただし、
「海外の論文ならCrossref、日本の論文ならJaLC」
と単純に分けられるわけではありません。
日本の出版社や学協会がCrossrefを利用することもありますし、J-STAGEにもCrossref DOIを利用する登載誌があります。
重要なのは論文がどの国で出版されたかではなく、どのRAを通じてDOIとメタデータを登録しているかです。
JaLCについては、今後このシリーズでも改めて取り上げます。
研究者自身はCrossrefについて何をすればよい?
研究者本人が通常、自分の論文についてCrossrefへ直接DOIやメタデータを登録する必要はありません。出版社や学協会などが、出版ワークフローの中で登録します。その意味では、研究者が日常的にCrossrefを操作する場面はあまり多くありません。
しかし、Crossrefへ登録されるメタデータの元になる情報は、研究者自身が投稿時に入力しているものでもあります。
たとえば、
著者名を正確に入力する
ORCID iDを認証して連携する
所属機関を正しく選択する
研究費情報を正しく入力する
参考文献を正確に記載する
といった情報です。
出版社側でどの情報をCrossrefへ登録するかは出版ワークフローによって異なりますが、元になる情報が不正確であれば、その後のメタデータにも影響する可能性があります。
研究者自身がCrossrefを操作する必要はあまりなくても、Crossrefへ届く情報の出発点の一部を作っているということです。
Crossrefについてよくある誤解
「CrossrefはDOIを管理している世界唯一の組織?」
いいえ。
Crossrefは、DOI Foundationから認定された登録機関(RA)の一つです。
JaLCやDataCiteなど、ほかのRAもあります。
「DOIがCrossrefに登録されていれば、その論文は信頼できる?」
そうとは限りません。
CrossrefへのDOIやメタデータの登録は、研究成果を識別し、その情報を流通させるための仕組みです。論文の研究内容や査読の質、ジャーナルの信頼性を認証するものではありません。
「Crossrefは論文検索サービス?」
Crossrefのメタデータを検索することはできますが、それだけが役割ではありません。
Crossrefは会員から研究成果のメタデータを受け取り、それを共有し、研究成果や研究情報の関係を支える学術情報基盤です。
「Crossrefには論文本文が保存されている?」
基本的には違います。
Crossrefが中心的に扱っているのは、研究成果についてのメタデータです。
DOIから出版社や学術プラットフォームのランディングページへ進むことはできますが、Crossrefがすべての論文本文を保管しているわけではありません。
「Crossrefのメタデータは出版社しか使えない?」
いいえ。
CrossrefのREST APIなどを通じて、一般にメタデータを検索・取得できます。
「DOIを登録すれば、必要なメタデータは全部自動で入る?」
いいえ。
DOIを登録する際に、どのメタデータを一緒に登録するかによって情報の充実度は変わります。ORCID、ROR、参考文献、研究費、ライセンス、要旨などが常にすべて登録されているわけではありません。こうした違いはParticipation Reportsでも確認できます。
Crossrefは、DOIの「番号」より、その周りの情報をつないでいる
Crossrefという名前はDOIと一緒に目にすることが多いため、「DOIを発行する組織」という印象を持つ人もいるかもしれません。
しかし、Crossrefが扱っているのはDOIという識別子だけではありません。
研究成果についてのメタデータを集め、共有し、著者、所属機関、参考文献、研究費などの情報を研究成果と結び付けています。
DOIが「どの研究成果なのか」を識別するなら、Crossrefは、その研究成果についての情報とほかの研究情報をつなぐ基盤の一つです。
次に論文のDOIを見かけたら、その短い識別子の裏側に、タイトルや著者、所属、引用などのメタデータを流通させる仕組みがあることも思い出してみてください。
「いまさら聞けない学術出版用語」では、学術出版でよく使われる用語を、言葉の意味だけでなく、その仕組みや研究者との関わりから解説します。



