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いまさら聞けない学術出版用語:PIDとは?

6 時間前
読了時間: 8分


DOI・ORCID・RORは何が共通しているのか


これまで「いまさら聞けない学術出版用語」では、DOI、ORCID、RORを取り上げてきました。


DOIは研究成果を識別します。ORCIDは研究者を、RORは研究機関を識別します。

対象はそれぞれ異なりますが、この3つには共通点があります。


いずれも、PIDと呼ばれる識別子です。


では、PIDとは特定のサービスなのでしょうか。それとも、決まった形式の番号なのでしょうか。


PIDとは?


PID(Persistent Identifier)は、研究成果、人、組織などの対象を一意に識別し、長期にわたって安定して参照できるようにする識別子の総称です。DOI、ORCID iD、ROR IDは、それぞれ異なる対象を識別しますが、いずれも学術情報を継続的に識別し、他の情報と結び付けるために使われるPIDです。


つまり、PIDは特定の一種類の番号ではなく、識別子のカテゴリーです。



なぜ名前やURLだけでは足りないのか


研究成果や研究者を識別するだけなら、タイトル、名前、URLなどを使えばよいようにも思えます。


しかし、こうした情報は変わることがあります。


論文の掲載先URLが変わることがあります。研究者は所属機関や姓が変わることがあります。研究機関にも日本語名や英語名、略称があり、改称や統合が起こることもあります。

前3回で見てきたのは、いずれもこの問題でした。


名称やURLは、その対象についての重要な情報です。しかし、それだけに頼ると「以前の情報と現在の情報が同じ対象を指しているのか」を判断しにくくなることがあります。


PIDは、変化する名称や場所とは別に、「どの対象なのか」を識別するために使われます。



PIDの「Persistent」は、本当に永久という意味?


Persistent Identifierは、日本語では「永続的識別子」と訳されます。

そのため、一度付与されれば何もしなくても永久に残り続ける番号のように感じるかもしれません。


しかし、PIDの永続性は文字列そのものだけで成立するものではありません。


DOIについて紹介した回でも触れたように、DOI財団は、永続性は技術だけではなく、それを維持する組織、合意された方針、定められた運用によって成立すると説明しています。


たとえばDOIでは、識別子と現在の所在やメタデータが継続して管理されます。

ORCIDでは、ORCIDという組織が研究者を識別するレジストリとレコードを運営・維持しています。


RORでも、機関の名称や状態、組織間の関係などがレジストリ上で継続的に管理されています。


つまり、Persistentとは「放っておいても永久に存在する」という意味ではなく、同じ対象を長期にわたって参照できるよう、組織・システム・運用によって維持されることと考える方が正確です。



DOI・ORCID・RORは何が同じで、何が違うのか


ここまで紹介してきた3つを並べると、違いが分かりやすくなります。

PID

識別する対象

IDの形式

DOI

論文、研究データなどの研究成果・資源

https://doi.org/...

ORCID iD

研究活動に関わる個人

https://orcid.org/...

ROR ID

大学、研究機関、資金提供機関などの組織

https://ror.org/...


DOIについては「いまさら聞けない学術出版用語」シリーズの過去記事「DOIとは? URLと何が違うのか」、ORCIDについては「ORCIDとは? researchmapと何が違うのか」、RORについては「RORとは? 大学名があるのになぜ機関IDが必要なのか」で、それぞれ詳しく紹介しています。


3つが識別する対象は異なります。


一方で、変化する名前や場所だけに頼るのではなく、対象そのものを識別するという考え方は共通しています。


なお、PIDはこの3つだけではありません。研究活動では、ほかの研究資源や活動などを識別するPIDも利用されています。DOI、ORCID、RORは、このシリーズで取り上げた代表的な例です。DataCiteもPIDの例としてDOI、ORCID iD、ROR IDを挙げています



PIDの価値は「番号」よりも「つながり」にある


DOI、ORCID、RORをそれぞれ単独で見ると、便利なIDが3種類あるだけにも見えます。

しかし、PIDの価値は対象を一つずつ識別するところだけにあるわけではありません。


たとえば論文のメタデータに、研究成果を識別するDOI、著者を識別するORCID iD、所属機関を識別するROR IDが含まれていれば、

誰が、どこで、何を生み出したのか

という関係を情報システムが扱いやすくなります。


DataCiteでは、こうしたPIDで識別された対象と、PID同士の関係を扱う枠組みを「PID Graph」と呼んでいます。DOI、ORCID iD、ROR IDなどの間の関係を、メタデータを通じてたどるための考え方です。


重要なのは「PID Graph」という名称そのものではありません。


PIDの価値は、番号を持っていることだけではなく、正しいPID同士がメタデータによって結び付いていることにもあります。


研究成果を検索したり、研究者ごとの成果をまとめたり、特定の研究機関に関係する成果を調べたりできる背景には、こうした情報同士のつながりがあります。


メタデータや識別子が研究情報の流通でどのように使われるかについては、過去記事「研究成果を機械が扱える形にするには」でも紹介しました。



PIDがあれば、研究情報は自動的につながる?


では、DOI、ORCID、RORが存在すれば、研究情報は自動的にすべてつながるのでしょうか。そうではありません。


研究者がORCID iDを持っていても、論文投稿時などにそのiDが研究成果と結び付けられなければ、その関係は自動的には記録されません。


ORCIDも、正しい研究者と正しい研究活動を結び付けるため、出版社や投稿システムなどが認証済みORCID iDを収集し、研究成果のメタデータに含めることを推奨しています。


同じように、研究機関にROR IDが存在していても、論文の所属情報にそのROR IDが含まれていなければ、RORを利用した機関識別には限界があります。


DOIについても、DOIがあることと、そのメタデータに著者、所属、関連する研究成果などの情報が十分に記録されていることは別の問題です。


つまり、

PIDが存在すること

と、

PIDが適切なメタデータに含まれ、対象同士の関係が記録されていること

は同じではありません。


PIDは研究情報をつなぐための重要な基盤ですが、それだけですべての情報が自動的に整理されるわけではありません。



日本の研究者にとってPIDは「海外の仕組み」なのか


DOI、ORCID、RORという名前を見ると、海外の学術出版サービスの話に見えるかもしれません。しかし、日本の研究情報流通にもPIDはすでに組み込まれています。


DOIについては、日本のDOI登録機関としてJapan Link Center(JaLC)があります。


ORCIDについては、researchmapがORCIDとのアカウント連携機能を提供しています。さらに、ORCIDからresearchmapへ情報を自動的に取り込む機能も用意されています。


RORでは、日本の大学や研究機関も世界共通のROR Registryの中で識別されています。


つまりPIDは、海外出版社へ論文を投稿するときだけに登場する番号ではありません。国内外のさまざまな研究情報システムを支える基盤の一部になっています。


一方、日本にはe-Rad研究者番号やresearchmap上のIDなど、特定の制度やサービスで利用されるさまざまな識別子もあります。


学術情報で使われるIDが、すべて同じ目的、適用範囲、運営方法を持っているわけではありません。



研究者自身はPIDについて何をすればよい?


PIDを支える技術や情報基盤の仕組みを、研究者自身がすべて理解する必要はありません。

実務上は、次のような使い方を意識すれば十分です。


  • 論文や研究データを示すときは、利用できる場合はDOIを使う

  • ORCID iDは重複して取得せず、投稿システムなどでは可能であれば認証して利用する

  • 所属機関を候補から選択するときは、正しい組織を選ぶ

  • 投稿や登録時に識別子を求められた場合は、正しい情報を入力する


こうした一つひとつの操作が、研究成果、研究者、研究機関の正しい関係をメタデータに残すことにつながります。



PIDについてよくある誤解

「PIDとはDOIの別名?」

違います。

DOIはPIDの一種です。ORCID iDやROR IDなど、異なる対象を識別するPIDもあります。


「PIDなら絶対に永久に使える?」

そういう意味ではありません。

PIDの長期的な利用は、識別子を支える組織、システム、メタデータ、継続的な運用によって維持されます。DOI Systemでも、永続性は技術だけではなく組織と運用によって成立するものとされています


「PIDはDOI・ORCID・RORの3種類だけ?」

いいえ。

このシリーズでは代表的な例として3つを取り上げましたが、PIDが識別する対象はこれだけではありません。研究活動にはさまざまな対象があり、それに応じた識別子が利用されています。


「研究関係のIDなら全部PID?」

必ずしも同じ意味で使われるわけではありません。

研究情報にはさまざまなIDがありますが、何を識別するのか、どの範囲で利用するのか、どのように維持されるのかはそれぞれ異なります。

そのため、「研究で使うID」と「PID」という言葉を常に同じ意味として扱う必要はありません。


「PIDを取得・登録すれば、ほかの情報とも自動的につながる?」

いいえ。

PIDが適切なメタデータに含まれ、研究成果、研究者、組織などの関係が記録される必要があります。


「PIDが付いていれば、内容や機関の信頼性も保証される?」

いいえ。

PIDは対象を識別するための仕組みです。

論文の研究内容、研究者の能力、研究機関の信頼性などを評価・認証するものではありません。


「PIDは研究者だけのための仕組み?」

いいえ。

出版社、大学、図書館、研究助成機関、リポジトリ、研究情報サービスなどが研究情報を管理・交換する際にもPIDは利用されます。

研究者が日常的に目にするのはDOIやORCIDなどの文字列かもしれませんが、その背後では多くの情報システムがPIDとメタデータを利用しています。



PIDは、研究情報を長く識別し、つなぐための仕組み


ここまでのシリーズでは、DOI、ORCID、RORをそれぞれ紹介してきました。

DOIは研究成果を、ORCIDは研究者を、RORは研究機関を識別します。

対象は違いますが、共通しているのは、変化する名前や場所だけに頼らず、「どの対象なのか」を継続して識別するという考え方です。


さらに、PIDは一つひとつの対象に番号を付けるためだけの仕組みではありません。


正しい識別子をメタデータで結び付けることで、「誰が、どこで、何を生み出したのか」という研究情報を、システムを越えてたどれるようにするための基盤にもなります。


次にDOI、ORCID、RORを見かけたら、それぞれ別々の番号ではなく、研究情報を識別し、つなぐPIDの一つとして見てみてください。


「いまさら聞けない学術出版用語」では、学術出版でよく使われる用語を、言葉の意味だけでなく、その仕組みや研究者との関わりから解説します。

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