top of page

インタビュー:中江病院・中路幸之助先生(Diagnostics誌優秀査読者賞)

  • 3 日前
  • 読了時間: 7分

MDPIは、迅速な出版プロセスを実現する一方で、科学的厳密さと研究の信頼性を重視しています。その両立を可能にしているのが、日々誠実に査読に取り組んでくださる査読者の皆さまのご協力です。


MDPIの「優秀査読者賞(Outstanding Reviewer Award)」は、投稿された論文に丁寧に目を通し、徹底した専門的評価を行いながらも、迅速なフィードバックを提供してくださった査読者に贈られる、各ジャーナル年次の表彰制度です。前年度にご活躍いただいた査読者の中から、特に顕著な貢献を示された方が選出されます。


今回は、Diagnostics誌にて2025年度の優秀査読者賞を受賞された、医療法人愛晋会 中江病院 内視鏡治療センターの中路幸之助先生にお話を伺いました。



1.     このたび Diagnostics の Outstanding Reviewer Award を受賞されたご感想をお聞かせください。また、同誌ではこれまで、主にどのような分野の論文を査読されてきましたか。


このたびは大変栄誉ある賞をいただき、誠にありがとうございます。日々の診療の何よりの励みとなり、大変うれしく思っております。


これまで、自分の専門である消化管関連の臨床研究の査読をお引き受けする機会を多くいただきましたが、それ以外にも基礎研究や他の臨床領域まで、幅広く査読させていただきました。査読を通じて自分でも文献を調べ直し、新しい知見に触れられることも多く、特に専門外の論文に向き合うときには、むしろこちらが勉強させていただいているという感覚があります。おかげで、査読を通じて、研究者としての視野が少しずつ広がってきているように感じています。



2. 先生は長年、消化器内視鏡、特に小腸・大腸カプセル内視鏡の診療と研究に取り組まれています。カプセル内視鏡には従来の内視鏡検査と比べてどのような特徴があり、どのような患者さんにとって有用なのでしょうか。


なんといっても、カプセル内視鏡の一番の特徴は、従来の内視鏡検査に比べて非侵襲的であるという点だと思います。


大腸カプセル内視鏡は、通常の大腸内視鏡のような穿孔や出血のリスクがありません。ですので、心臓や肺の機能が弱く検査中に麻酔をかけられない患者さんや、結腸が長かったり便秘があったりして盲腸まで挿入するのが難しい患者さんにも安心して受けていただけます。以前、術後の癒着が強く、どこの病院で大腸内視鏡を受けてもS状結腸までしか観察できなかった患者さんが、大腸カプセル内視鏡ではじめて全大腸を診ることができ、大変喜んでくださったことがありました。あの時のことは今も忘れられません。


小腸カプセル内視鏡についても、バルーン内視鏡と比べると穿孔や膵炎といったリスクがなく、生検や治療こそできないものの、はるかに患者さんの負担が少ない検査です。滞留のリスクが高い場合や、緊急で治療を要する場合を除けば、今では小腸病変を調べるうえでの第一選択枝となっています。



3. カプセル内視鏡は患者さんの身体的な負担を抑えられる一方、検査前の準備、消化管内の通過、撮影画像の確認などには固有の課題もあると思います。これまでの研究や臨床経験を通じて、特に改善が必要だと感じている点を教えてください。


カプセル内視鏡は自分で進んでいくわけではないので、どうしても消化管の中で滞留してしまうリスクがあります。そのため、あらかじめ崩壊性のパテンシーカプセルを使って通過を確認してから本検査に進むのですが、実はこのパテンシーカプセルのフィルムコーティング膜は溶けずに残るため、これ自体が滞留の原因になることもあります。ですので、パテンシーカプセルそのものにもまだ改良の余地があると感じています。


大腸カプセル内視鏡では、カプセルを押し流す必要があるため、通常の大腸内視鏡検査のおおよそ倍量の下剤を飲んでいただかなければなりません。いかに患者さんの負担を減らしながら、良好な洗浄度を保つか——これは本当に尽きない課題です。


また、検査後の読影にかかる時間も、医師にとって大きな負担になっています。現在はカプセル内視鏡学会の認定読影技師による支援も進んでいますが、それでも膨大な画像の中から見落としなく、かつ効率よく読影する仕組みをどう作るかは、喫緊の課題だと感じています。


加えて、検査費用も無視できません。日本の健康保険で3割負担でも約3万円と、決して安くはありません。より多くの患者さんに受けていただくためには、費用面での工夫も今後必要になってくると思います。



4. 先生は中江病院で日常診療に携わりながら、カプセル内視鏡に関する臨床研究や多施設共同研究を続けてこられました。患者さんを診療する中で得られた疑問が、研究課題につながった例があればお聞かせください。また、臨床と研究を両立するうえで大切にされていることは何でしょうか。


「専門外の診療や救急対応もこなしながら、どうやってこんなに学会発表の準備や論文執筆が出来るのですか?」と、よく聞かれます。ただ、私はむしろ逆で、こうして日々幅広い臨床現場にアンテナを張っているからこそ、その中に大切な研究のヒントが埋もれていることに気づけるのだと思っています。臨床と研究は、私にとってまさに車の両輪です。


たとえば、日常診療でフレイル(虚弱)の高齢患者さんを診ていると、頑固な便秘に悩まされている方が多いことに気づかされます。そこで、「もしかしたら大腸の通過時間そのものが延びているのではないか」という仮説が頭に浮かびました。ちょうど、カプセル内視鏡はその軌跡から腸管通過時間を測定できます。そこで、大腸カプセル内視鏡を施行したフレイルの患者さんの通過時間を測ってみたところ、健常群と比べて大腸の通過時間が延長している可能性が示唆されました。この結果は、消化器関連学会の主題演題として採択いただき、論文化することができました。日々の診療での何気ない疑問が、こうして形になっていく——これが臨床医として研究を続ける醍醐味だと感じています。



5. 診断法や検査法に関する論文を査読する際、対象患者の選び方、診断精度の評価、比較対象となる検査、患者さんへの安全性や負担などについて、特に重視されている点を教えてください。


査読では、結果そのものよりも、むしろ方法(Methods)の記述が十分かどうかを重視しています。というのも、研究の再現性を担保するうえで、ここが何より大切だからです。著者ご自身が「当たり前」と感じている手順であっても、第三者が同じ研究を追試できるよう、丁寧に記述していただく必要があります。


もう一つ大切にしているのが、研究の背景の書き方です。疫学的な知見やこれまでの関連研究について、しっかりと踏まえられているか。イントロダクションを読んだだけで、専門外の読者でもその研究の意義が理解できる——そういう記述が理想的だと考えています。



6. カプセル内視鏡では多数の画像を確認する必要があり、今後は AI による画像診断支援の活用も進むと考えられます。こうした技術によって消化器診療はどのように変わるとお考えですか。また、診断や内視鏡の研究に取り組む若手医師への助言もお願いいたします。


まだ研究段階ではありますが、さまざまなアーキテクチャの AI を用いた読影で、十分に許容できる診断精度を保ちながら読影時間を短縮できるという報告が次々と出てきています。実臨床への応用も、そう遠い話ではないと感じています。これが実現すれば、医師の負担が軽くなり、カプセル内視鏡に関わる医師も自然と増えていくのではないかと期待しています。


消化器専門医を志す若手の先生方の多くは、どうしても治療内視鏡のような華やかな分野に目が向きがちで、カプセル内視鏡は「地味」と映るのか、あまり関心を持たれない傾向があるように思います。けれども、カプセル内視鏡というレンズを通して消化器の世界を眺めてみると、その先には炎症性腸疾患、消化管腫瘍、機能性消化管疾患など、実に多彩な領域が広がっていて、未解決の課題も山ほど残されています。ある程度確立された分野での競合が激しい「レッド・オーシャン」ではなく、まだ手つかずの「ブルー・オーシャン」がそこにあります。若手の先生方でも、努力しだいで、十分に世界のトップレベルの研究報告や論文公表を目指せる分野だと私は思っています。


これから、より多くの若い先生方がカプセル内視鏡検査に興味を持っていただけることを願っています。


bottom of page