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インタビュー:城西大学・加藤恵一先生(Magnetochemistry誌優秀査読者賞)

8月13日
読了時間: 6分

MDPIは、迅速な出版プロセスを実現する一方で、科学的厳密さと研究の信頼性を重視しています。その両立を可能にしているのが、日々誠実に査読に取り組んでくださる査読者の皆さまのご協力です。


MDPIの「優秀査読者賞(Outstanding Reviewer Award)」は、投稿された論文に丁寧に目を通し、徹底した専門的評価を行いながらも、迅速なフィードバックを提供してくださった査読者に贈られる、各ジャーナル年次の表彰制度です。前年度にご活躍いただいた査読者の中から、特に顕著な貢献を示された方が選出されます。


今回は、Magnetochemistryにて2025年度の優秀査読者賞を受賞された、城西大学大学院理学研究科 物質科学専攻 錯体物性化学研究室の加藤恵一先生にお話を伺いました。



1. このたび、Magnetochemistry誌のOutstanding Reviewer Awardを受賞されました。受賞を知った際のご感想をお聞かせください。


受賞を知ったときは、まず驚きましたが、率直にうれしかったです。査読にはそれなりに時間がかかりますし、判断に迷うこともあります。ときにはストレスを感じることもあるので、今回こういう形で評価していただき、ありがたく思っています。


実は、「磁性」を掲げる専門誌は意外と多くありません。現代社会が磁石なしでは成り立たないことを考えると、不思議ですよね。物性を広く扱う雑誌はありますが、金属錯体などの分子性磁性体の研究を投稿できる、磁性に特化した専門誌となると、選択肢はさらに限られます。その意味でも、この雑誌ができたことをうれしく思っています。


私はこの雑誌のEditorial Board Member(編集委員)も務めていますので、少しでもこの雑誌のお役に立てればと思い、査読依頼は基本的にお引き受けしています。



2. 先生は、金属錯体の電子状態や磁気的性質を研究されています。まず、金属錯体とはどのような物質であり、その磁気的性質を研究することには、どのような面白さがあるのでしょうか。専門外の読者にも分かりやすく教えてください。


金属錯体とは、金属イオンの周りに「配位子」と呼ばれる分子やイオンが結合した物質です。現在では、生命活動に関わる物質から触媒、発光材料、磁性材料まで、さまざまな機能を持つ金属錯体が研究されています。金属錯体を含む分子磁性体の研究も、20世紀初頭から続いています。


磁性のもとになるのは、金属イオンや配位子に存在する電子のスピンです。スピンは小さな磁石のような性質を持っており、配位子は金属イオンの電子状態や、スピン同士の関わり方を調整します。金属錯体の面白さは、性質の異なる金属イオンとさまざまな配位子を組み合わせることで、電子のスピン状態や磁気的な性質を分子レベルで調整できるところにあります。分子を組み立てながら、目標とする磁気特性をつくり出せることが、この研究の大きな魅力だと思います。



3. 先生の研究室では、金属イオンや有機配位子の組み合わせによって、錯体の電子状態や磁気的性質を制御する研究に取り組まれています。分子の構造を設計することで磁気的性質を変えるとは、具体的にどのようなことなのでしょうか。


金属イオンを取り囲む配位子がどのような形で結合するかによって、金属イオンの電子状態は変化します。配位子がつくり出すこの環境を「配位子場」と呼びます。配位子場を適切に設計すると、磁化が特定の方向を向きやすくなる「一軸磁気異方性」を生み出すことができます。簡単に言えば、分子の中に、磁石が向きやすい方向をつくるということです。この磁気異方性は、一つの分子がナノサイズの磁石として振る舞う単分子磁石の性質を決める重要な要素です。


私たちの研究室では、単分子磁石の機能向上を目指して、プロトンの着脱によるスイッチングや、イオン・分子の認識、分子間相互作用に加えて、中心金属の酸化還元特性などを利用しています。こうした外部からの影響や分子同士の関わりによって、金属イオンの周りの配位環境を変化させ、電子状態や磁気異方性を制御する研究に取り組んでいます。



4. 一つの分子が磁石のような性質を示す「単分子磁石」は、将来どのような技術への応用が期待されているのでしょうか。また、実用化に向けて、現在どのような課題が残されているのか教えてください。


単分子磁石は、一つの分子に磁気情報を保持できることから、超高密度な磁気記録やスピントロニクスへの応用が期待されています。また、分子のスピンを量子ビットとして利用する量子コンピュータの研究とも深く関わっています。


磁気記録という点では、磁石としての性質を示す指標の一つである磁気ヒステリシスが、液体窒素温度(約−196℃)を超える温度でも観測される単分子磁石が2018年に報告され、一つの大きな壁を越えたと言えます。しかし、個々の分子に情報を書き込み、それを読み出す技術や、分子をデバイス上に安定して並べる方法など、実用化には多くの課題が残っており、現時点では具体的な見通しが立っているとは言えません。


もう一つの重要な課題は、分子の振動がスピンとどのように相互作用し、磁化緩和を引き起こすのか、その仕組みを理解することです。この問題は、単分子磁石だけでなく、分子スピンを利用した量子技術にも関わります。分子構造、振動、スピンの関係を明らかにし、磁化緩和を制御できる単分子磁石を設計することが、現在の重要な研究テーマの一つと言えます。


5. これまでに担当された査読の中で、特に印象に残っている経験があれば教えてください。判断に悩んだ論文や、査読を通じて研究内容が大きく改善された例など、差し支えない範囲でお聞かせいただければ幸いです。


私自身の経験からお話しすると、自分の論文が査読によって大きく変わったことがあります。不思議なことに、そのときは査読への対応をストレスだとは感じませんでした。査読者のコメントを読み、その意図を考えながら原稿を修正していく過程が楽しかったですね。最終的には原稿の3分の1ほどを書き直したので、もちろん大変ではありました。それでも、修正後の原稿を投稿時のものと比べてみると、結論は同じにもかかわらず、論文の伝わり方は格段に良くなっていました。


その経験から、良い査読とは、著者に修正を一方的に求めるのではなく、「どうすれば論文がより良くなるのか」「議論をさらに深めるためには何が必要なのか」を著者とともに考えることだと思います。私が査読をするときの姿勢も、この経験を境に変わったように思います。私が担当した論文の著者にも、「良い体験だった」と感じてもらえていたらうれしいですね。

 


6. 錯体物性化学や分子磁性の分野を目指す学生や若手研究者に向けて、この分野で研究する魅力や、今後身に付けてほしいことについてメッセージをお願いします。


分子磁性は、日本が昔から強みを持ってきた研究分野の一つで、化学、物理、材料科学など、いくつもの分野にまたがっています。分子や金属錯体を自分たちで設計・合成し、そこから生まれる磁気的性質を分野横断しながら研究できることが、大きな魅力だと思います。


また、磁性だけでなく、伝導性や誘電性、発光、光応答性など、さまざまな物性と組み合わせて新しい機能を引き出す研究も盛んです(私も挑戦中)。そのため、自分の専門を身に付けるとともに、磁性以外の分野にも広く関心を持ってほしいと思います。月並みかもしれませんが、自分が面白いと思ったことに、ぜひ挑戦し続けてください。私もまだ若いつもりでいますので、これからも皆さんと一緒に挑戦していきたいと思っています。


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