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競争的研究費の即時OA要件に備える──MDPIジャーナルへの投稿メリットと活用法

更新日:7月3日

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はじめに:変わる学術出版の環境

2025年度以降交付される競争的研究費(科研費など)による論文は、学術雑誌に掲載された時点で即座に機関リポジトリ(IR)等へ登録し、誰でもアクセス可能にすることが政府方針で義務化されています。この政策転換は、日本の学術界における研究成果の公開方法を根本的に変える重要な変化です。

具体的には、学術雑誌に掲載された最終版(Version of Record: VoR)を、掲載後ただちに機関リポジトリ等へ登録する必要があります。これは研究者個人だけでなく、大学図書館や研究機関の情報管理部門にとっても新たな課題となっています。

出版社サイトで査読付き論文がオープンアクセスで掲載された場合でも(いわゆるゴールドロード)、IR登録そのものが免除されるわけではありません。それならば、ゴールドロードを選ぶのにどのようなメリットがあるのでしょうか?

本記事では、MDPIのジャーナルに投稿することで得られる実務上のメリットを整理し、研究代表者や大学図書館が即時公開義務をスムーズに達成するための具体的なポイントを解説します。

 

1.        機関リポジトリへの即時掲載を支援

1-1. 出版版PDFをそのまま利用可能

MDPIで採択された論文は全てCC-BYライセンスで公開されるため、著者あるいは図書館は出版当日に最終版(Version of Record)をIRに自由に登録できます。エンバーゴ(オンラインで論文全文の閲覧を一時的に制限する措置)期間は一切ありません。

従来の購読型ジャーナルでは、出版社版PDFの機関リポジトリへの登録には6ヶ月から2年のエンバーゴ期間が設けられることが一般的でした。この期間中は、著者最終稿(Author's Accepted Manuscript、AAM)のみしか公開できず、フォーマットの違いや品質の問題が生じがちでした。MDPIのオープンアクセスモデルでは、こうした制約が一切なく、出版社が提供する高品質なPDFを即座に利用できます。

1-2. IOAP契約機関での自動アーカイブ機能

機関オープンアクセスプログラム(IOAP)に参加している大学・研究機関であれば、MoUに明記されているとおり、SWORD 1.3プロトコル経由で出版版PDFと完全メタデータを機関リポジトリへ自動転送するオプションを選択できます。これにより、人的作業を最小限に抑えながら「掲載後即時登録」の要件を確実に満たすことができます。

現在、日本国内では40以上の大学・機関がIOAPに参加しており、その数は年々増加しています。参加機関では、論文が出版されると同時に、出版版PDFや書誌情報などを自動的に機関リポジトリに転送することが可能です。この自動化により、図書館職員の手作業負担が大幅に軽減され、人的ミスのリスクも最小化されます。

 

2.        APC(論文掲載料)の負担軽減

オープンアクセス誌への投稿においては、APC(論文掲載料)がネックとなることが多いですが、負担を軽減する方法があります。

2-1. IOAPによる割引

大学・研究機関単位でIOAPを締結すると、所属研究者は、責任著者・共著者のいずれの場合でも、APCの10%割引が受けられます(著者様に直接APCを請求する「著者様払いプラン」の場合)。登録費・年会費は無料、また割引は自動適用されるため、作業負荷はありません。

2-2. 学会パートナーシップとレビューアー特典の活用

MDPIと提携する学会に加盟している場合や、MDPIジャーナルの査読を担当した研究者には追加のAPC割引(クーポン)が提供されます。これらの特典を組み合わせることで、予算上限を超えずにOA出版を実現しやすくなります。

現在、MDPIは国内外180以上の学会と提携しています。また、査読者への謝礼として割引クーポンも提供されます。

2-3. 予算計画における戦略的活用

競争的研究費の申請時に、これらの割引制度を織り込んだ予算計画を立てることで、より多くの論文を出版できる可能性があります。特に、複数年度にわたるプロジェクトでは、初年度の査読活動によって獲得した割引を後年度の論文出版に活用するということも計画できます。

 

3.        ワークフロー:投稿から公開まで

3-1. 投稿前の準備段階

・ 所属機関の契約状況確認

まず、所属機関がMDPIとの間でIOAP契約を結んでいるか確認し、割引や自動IR登録の有無を調べます。IOAP参加機関一覧はこちらよりご確認いただけます。

・適切なジャーナル選択 MDPIは460以上のジャーナルを発行しており、分野に最適なジャーナルを選択することが重要です。ジャーナルのスコープ、インパクトファクター、特集号の有無などを総合的に検討します。*ジャーナルファインダー

3-2. 投稿から採択まで

・迅速な査読プロセス 投稿後、通常2-4週間で初回査読結果が通知されます。修正が必要な場合も、明確なガイダンスが提供され、効率的な改訂作業が可能です。

・透明性の高いコミュニケーション 査読プロセス全体を通じて、投稿者には定期的な進捗報告が行われ、予定の把握が容易です。

3-3. 採択後の手続き

・出版版PDFの取得

出版が決定すると、高解像度の出版版PDFが即座にダウンロード可能になります。このPDFは機関リポジトリへの登録に直接使用できます。

IR管理者との連携 図書館のIR管理者と連携し、登録日時を確認します。IOAP参加機関では自動登録が行われますが、登録完了の確認は重要です。

3-4. データ公開

データリポジトリへのアップロード 研究データをFigshareやZenodoなどにアップロードし、DOIを取得します。データの種類や機密性に応じて、適切なプラットフォームを選択します。

データ利用可能性ステートメントの作成 論文中のデータ利用可能性ステートメント(DAS)セクションに、データの所在とアクセス方法を明記します。MDPIの編集部が適切な記述をサポートします。

 

4.        記録保管と報告書作成

4-1. 記録の整理

競争的研究費の報告書作成に向けて、以下の記録を系統的に保管することが重要です。

·      IR登録完了画面のスクリーンショット

·      DOI解決結果の確認記録

·      データ公開に関する証跡

·      APC支払いの領収書と割引適用記録

4-2. 成果報告書への記載

成果報告書には、論文のオープンアクセス化とデータ公開の状況を明確に記載します。MDPIでの出版により、即時オープンアクセス要件を満たしていることを具体的に示すことで、研究費執行の適切性を証明できます。

 

まとめ:戦略的なオープンアクセス出版を目指して

MDPIで論文を出版することにより、CC-BYライセンスによる即時IR登録とIOAPなどによるAPC割引が組み合わさり、政府が求める即時オープンアクセス要件を最小限の手間と費用で達成できます。

さらに、迅速な査読プロセス、データ公開サポート、高品質な出版サービスなど、研究活動全体の効率化に貢献する多くのメリットがあります。競争的研究費を申請する際には、これらのサポート体制を活用し、計画書や経費申請に反映させておくことで、研究成果の最大化と社会への還元を同時に実現できます。

今後、オープンアクセス義務化の流れは更に加速することが予想されます。MDPIのサービスを戦略的に活用し、変化する学術出版環境において優位性を維持し、研究インパクトの最大化を目指すことをおすすめいたします。

 

参考文献

·      内閣府 統合イノベーション戦略推進会議. 2024. 「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」. https://www8.cao.go.jp/cstp/oa_240216.pdf

·      Creative Commons. "CC BY License Explanation". https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/


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