いまさら聞けない学術出版用語:ORCIDとは? researchmapと何が違うのか
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論文を投稿するとき、
0000-0000-0000-0000
のようなORCID iDの入力や連携を求められることがあります。
すでにresearchmapに研究歴や論文一覧を登録している人なら、「研究者情報ならresearchmapにもあるのに、なぜORCIDも必要なのだろう」と思うかもしれません。
さらに日本の研究者には、e-Radの研究者番号もあります。
研究者を表す番号やプロフィールがいくつもあるように見えますが、それぞれ役割は異なります。
ORCIDとは?
ORCID(Open Researcher and Contributor ID)は、研究活動に関わる個人を一意に識別するための、無料で利用できる永続的識別子(PID)です。同姓同名や氏名表記の違いがあっても、「この研究成果に関わったのは誰か」を研究情報システムの間で結び付けるために使われます。researchmapが研究者の業績や活動を管理・発信する研究情報基盤であるのに対し、ORCIDの中心的な役割は、国や所属機関をまたいで研究者本人を識別することです。
なぜ名前だけでは研究者を識別できないのか
論文の著者名は、必ずしもいつも同じ形で記録されるとは限りません。
たとえば「山田太郎」という研究者でも、
Taro Yamadaと表記されることもあれば、T. Yamadaと記載されることもあります。
同姓同名の研究者もいますし、所属機関が変わったり、姓が変わったりすることもあります。
こうした状況で、名前という文字列だけを使って「同じ研究者かどうか」を判断するのは簡単ではありません。ORCIDは、名前や所属とは別に研究者本人へ固有のiDを持たせることで、研究者とその活動を継続して結び付けられるようにしています。
いまさら聞けない学術出版用語シリーズ第1回で紹介したDOIが研究成果を識別するためのPIDなら、ORCIDは研究活動に関わる個人を識別するためのPIDです。
ORCID iDとORCID recordは何が違うのか
ORCIDには、
https://orcid.org/0000-0000-0000-0000
のようなORCID iDがあります。
4文字ずつ4つに区切られた形で表示され、最後の文字がチェック用の「X」になるORCID iDもあります。
一方、ORCIDのWebサイトでiDを開くと、その研究者についての情報を見ることができます。ORCID iDは研究者を識別するための識別子で、ORCID recordはそのiDに結び付けられた研究者情報です。
ORCID recordには、所属や研究成果などの情報を登録できます。研究者本人が入力するだけでなく、本人が許可した大学、出版社、研究助成機関などの組織から情報が追加されることもあります。
何を一般公開するか、信頼する組織だけに見せるか、非公開にするかも、研究者自身が設定できます。
そのため、ORCIDにはプロフィール画面がありますが、単なる「研究者プロフィールサービス」と考えると、本来の役割が見えにくくなります。
ORCIDの中心的な役割は、プロフィールページを作ることではなく、研究者本人を識別し、その人と研究活動を結び付けることです。
論文投稿時にORCIDを求められるのはなぜか
出版社の投稿システムでは、著者にORCID iDの連携を求めることがあります。
ここで重要なのが「認証」です。
投稿画面にORCID iDを自分で入力するだけでなく、ORCIDの画面へ移動してログインし、そのiDが自分のものであることを確認して連携する仕組みがあります。
ORCIDでは、研究者本人から直接iDを取得できるワークフローでは、このように認証されたORCID iDを利用することを重視しています。単なる手入力より、「その研究者が実際にそのiDを持っている」と確認できるからです。
論文が出版されると、そのORCID iDを論文のメタデータに含めることもできます。
すると、
研究者 ← ORCID iD → 論文 ← DOI
という関係を、情報システムが扱える形で表すことができます。
前回記事「いまさら聞けない学術出版用語:DOIとは? URLと何が違うのか」で紹介したDOIと、ORCIDがここでつながります。
研究成果はORCIDとどう結びつくのか
ORCID recordの論文一覧を、すべて研究者自身が一件ずつ入力しなければならないわけではありません。
たとえばCrossrefには、DOIのメタデータとORCIDを利用して研究成果をORCID recordへ追加するAuto-updateの仕組みがあります。
出版社などがCrossrefへ論文のメタデータを登録する際、著者のORCID iDが一緒に登録されていれば、その情報をORCID recordへつなぐことができます。ただし、研究者本人がCrossrefによる更新を許可することが必要です。許可した後は、ORCID iDを含む将来のCrossref登録論文について、自動的にrecordを更新できるようになります。
つまり、論文を出版する→ DOIと論文メタデータが登録される→ メタデータに著者のORCID iDが含まれる→ 許可された仕組みを通じてORCID recordに研究成果が追加される
という情報の流れを作ることができます。
これは、DOIやORCIDのような識別子が単独で存在するのではなく、識別子とメタデータを使って研究情報をシステム間でつなぐ例でもあります。
こうした研究情報の流通については、「研究成果を機械が扱える形にするには」でも、メタデータや識別子がどのように使われるのかを紹介しています。
researchmapにもORCIDとのアカウント連携や、ORCIDから情報を取り込む機能があります。
ORCIDの価値は、「もう一つ研究業績を手入力するプロフィール欄が増えること」ではなく、異なる研究情報システムの間で、研究者本人と研究成果を結び付けられることにあります。
ORCID・researchmap・e-Rad研究者番号は何が違うのか
日本では、ORCID以外にも研究者に関係するIDや情報基盤があります。
代表的なのがresearchmapとe-Rad研究者番号です。
researchmapは、研究者が研究情報や業績を管理・発信できるデータベース型研究者総覧です。JSTが運営し、大学等の研究者だけでなく、大学院生、企業の研究者、研究活動に参加する研究支援者なども登録対象になっています。登録方法もe-Rad研究者番号による申請だけではなく、業績を示して申請する方法や、登録済み研究者から招待を受ける方法があります。
e-Radは、競争的研究費制度を中心に、応募から成果報告までの手続きを扱う府省共通研究開発管理システムです。e-Radでは研究者を一意に識別するため研究者番号が付与されます。研究機関に所属している場合は所属機関を通じて登録するのが基本ですが、研究機関に所属していない研究者にも登録経路があります。取得済みの研究者番号は所属機関が変わっても継続して使用します。
三者を大まかに整理すると、次のようになります。
ORCID | researchmap | e-Rad研究者番号 | |
主な役割 | 研究者本人を継続的に識別する | 研究者情報・業績を管理・公開する | e-Rad内で研究者を一意に識別する |
主な利用場面 | 論文投稿、出版メタデータ、研究機関・助成機関などの研究情報システム | 業績管理・公開、研究者検索、科研費審査時の参照など | 公募型研究資金制度への応募・管理など |
主に機能する範囲 | 国際的 | 日本の研究情報基盤 | 日本の研究資金制度 |
誰が持つのか | 研究者本人が取得・管理 | JSTが運営するサービス上で研究者がアカウントを利用 | 所属機関を通じて付与されることが多い |
科研費の審査では、審査委員が必要に応じてresearchmapの一般公開情報を参照できる仕組みがあります。ただし、researchmapへの登録や更新そのものが科研費応募の要件ではありません。
また、researchmapに登録されている業績情報をe-Radでの応募や成果報告時に利用したり、e-Rad側の業績情報をresearchmapへ取り込んだりする仕組みもあります。
三者は競合するIDではありません。
かなり大づかみに言えば、e-Rad研究者番号とresearchmapは日本の研究制度・研究情報基盤の中で使われるものですが、ORCIDは国や所属機関をまたいで研究者本人が持ち続ける識別子です。
そのため、日本国内ですでにresearchmapやe-Rad研究者番号を使っていても、ORCIDには別の役割があります。
ORCIDについてよくある誤解
「ORCIDは研究者版のSNS?」
そうではありません。
ORCID recordにはプロフィールのように研究者情報を表示できますが、ORCIDの中心的な役割は、研究活動に関わる個人を一意に識別し、その人と研究成果や所属などを結び付けることです。
「ORCIDとresearchmapとe-Rad研究者番号、どれか一つあればよい?」
三者は役割が異なるため、どれか一つに置き換えられる関係ではありません。
特にORCIDは、国や所属機関を越えてさまざまな研究情報システムで利用できる識別子として設計されています。
「ORCIDは有料?」
研究者本人がORCID iDを取得・維持するための費用はかかりません。
ORCIDは非営利組織で、組織会員からの会費などによって運営されています。
「ORCIDを作れば、論文一覧が自動ですべて完成する?」
必ずしもそうではありません。
論文が自動的に追加されるためには、ORCID iDが出版メタデータに含まれていることや、研究者が該当サービスによる更新を許可していることなどが必要です。自分で研究成果を追加する方法や、外部サービスから検索して追加する方法もあります。
「ORCIDに載っている情報は、すべてORCIDが認証している?」
そうではありません。
ORCID recordには研究者本人が入力した情報もあれば、本人が許可した出版社、研究機関、助成機関などが追加した情報もあります。ORCIDでは、それぞれの情報について誰が追加したのかという出所も記録します。そのため、「ORCIDに掲載されている=ORCIDという組織が内容を認証した」という意味ではありません。
「ORCID iDを2つ作ってしまったら?」
複数のORCID iDを作ってしまった場合は、そのまま使い分けるのではなく、重複レコードを整理します。
ORCIDにはAccount Settingsから重複レコードを処理する機能があります。重複したiD自体が別の研究者用に再利用されるわけではなく、使用しないiDは非推奨となり、指定した主要なrecordへつながるよう処理されます。
「ORCIDを取得すれば、同姓同名問題は自動的に解決する?」
取得しただけでは十分ではありません。
論文投稿や所属機関のシステムなどで実際にORCID iDを使い、本人と研究成果や所属情報を結び付けることで、識別子としての意味が生まれます。
特に投稿システムがORCID認証に対応している場合には、研究者本人がログインしてiDを連携することで、正しい研究者と正しいORCID iDを結び付けやすくなります。
ORCIDを使うなら、まず確認したいこと
ORCIDを利用するときには、次の点を確認しておくとよいでしょう。
新しく取得する前に、すでにORCID iDを持っていないか確認する:過去に取得したiDがある場合、新たに作らず既存のiDを使います。
論文投稿時には、可能であればORCID認証を使って連携する:ORCID iDを単に手入力するだけでなく、投稿システムからORCIDへログインして認証することで、本人とiDを正しく結び付けやすくなります。
ORCID recordの基本情報と公開範囲を確認する:どの情報を一般公開するかは研究者自身で設定できます。
researchmapを利用している場合は、ORCIDとの連携を確認する:researchmapにはORCIDとのアカウント連携や、ORCIDから情報を取り込む機能があります。
複数のメールアドレスを登録しておく:所属機関が変わり、機関のメールアドレスが使えなくなった場合にもrecordへアクセスできるよう、ORCIDは複数のメールアドレスを登録しておくことを案内しています。メールアドレスを一般公開する必要はありません。
ORCIDは「研究者を識別し続ける」ための仕組み
研究者の名前の表記や所属機関は、研究活動の中で変わることがあります。
それでも、同じ研究者が生み出した研究成果や研究活動を継続して結び付けるために使われるのがORCID iDです。
DOIが研究成果を識別するためのPIDなら、ORCIDは研究活動に関わる個人を識別するためのPIDです。そしてDOIのメタデータにORCID iDが含まれることで、「誰が、どの研究成果に関わったのか」という関係も機械が扱いやすい形でつなぐことができます。
次に論文投稿画面でORCIDを求められたら、単なる「プロフィール欄のひとつ」ではなく、自分と研究成果を結び付けるための識別子だと思い出してみてください。
「いまさら聞けない学術出版用語」では、学術出版でよく使われる用語を、言葉の意味だけでなく、その仕組みや研究者との関わりから解説します。

