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なぜ研究者は英語で論文を書くのか~AI翻訳時代でも英語論文がなくならない理由

  • 2 時間前
  • 読了時間: 4分

日本の大学で行われた研究。日本の研究費で進められたプロジェクト。研究者も読者も日本人であることが多い分野。


それでも、多くの研究成果は英語論文として発表されています。


「なぜ日本の研究なのに、英語で書かなければならないのか」


研究者であれば、一度は感じたことがある疑問かもしれません。


特に近年は、AI翻訳や文章生成技術が急速に進歩しています。高精度な翻訳が短時間でできる時代に、そもそも英語論文を書く必要はあるのでしょうか。


この問いを考えるためには、「英語で書くこと」が研究活動の中でどのような役割を持っているのかを考える必要があります。


英語論文の役割は「翻訳」ではなく、研究コミュニティへの参加


英語論文を書く目的は、単に日本語の研究成果を別の言語に置き換えることではありません。


より大きな役割は、国際的な研究コミュニティの中で発見され、読まれ、議論される状態にすることです。


研究成果は、発表しただけでは広がりません。


同じテーマに取り組む海外の研究者が検索で見つける。論文の中で引用する。査読や学会を通じて議論する。そこから共同研究につながる。


こうした研究活動の流れの中で、現在もっとも広く使われている共通言語が英語です。


英語論文を書くということは、単に「英語にする」作業ではなく、国際的な研究の議論に参加する入口でもあります。



なぜ英語が研究の共通言語になったのか


英語が現在の地位を持っているのは、英語という言語そのものが特別に研究に向いているからではありません。


歴史的な経緯によるものです。


かつてヨーロッパでは、学術の世界でラテン語が広く使われていました。その後、近代科学の発展とともに、ドイツ語やフランス語も重要な学術言語となりました。


20世紀前半までは、分野や地域によって複数の言語が使われていました。


しかし第二次世界大戦後、アメリカを中心とした研究投資の拡大、国際共同研究の増加、主要な学術誌やデータベースの発展によって、英語の存在感が急速に高まりました。


世界中の研究者が同じ情報空間で議論するためには、共通言語が必要でした。その役割を歴史的な経緯の中で担うようになったのが英語でした。



英語中心の研究環境が生む負担


一方で、この仕組みが非英語圏の研究者に負担を生んでいることも事実です。


研究内容そのものとは別に、英語を書く時間が必要になります。論文表現の調整、査読コメントへの返信、細かなニュアンスの確認にも労力がかかります。


論文を書く段階での負担は、英語母語話者とそうでない研究者の間で大きく異なります。


さらに心理的な面でも、英語表現への不安から、本来伝えるべき研究内容よりも「英語として間違っていないか」に意識が向いてしまうことがあります。


しかし、本来、論文で評価されるべきなのは英語力そのものではなく、研究の新規性、方法の妥当性、結果の重要性です。


英語はあくまで、研究を国際的な場へ届けるための手段の一つです。



AI翻訳はこの状況を変えるのか


近年、AI翻訳や生成AIの進歩によって、研究者を取り巻く環境は大きく変わっています。


以前であれば時間をかけて調整していた英文作成や表現確認を、AIが支援できるようになりました。


この変化によって、非英語圏研究者の英文作成に関する負担は、大きく軽減されていくでしょう。


では将来的には、「母語で論文を書き、自動翻訳すれば十分」という時代になるのでしょうか。


そのような形に近づいていく可能性はあります。しかし現時点では、研究コミュニケーションの仕組み全体がすぐに変わるわけではありません。


論文検索データベース、引用ネットワーク、査読システム、国際学会での議論など、多くの研究活動は英語を中心に設計されています。


AIによって「英語を書く負担」は下がっても、「国際的な研究コミュニティに参加する」という目的は残ります。



これから必要になるのは、完璧な英語より「伝える力」


AI時代には、研究者に求められる英語力の意味も変わっていくかもしれません。


細かな文法ミスをなくすことや、ネイティブらしい表現を書くことの重要性は、以前より下がっていく可能性があります。


一方で、


「この研究はなぜ重要なのか」


「誰に読んでもらいたいのか」


「既存研究の中で、どの位置にあるのか」


を明確に伝える力は、これからも必要です。


AIは文章を整えることはできます。しかし、研究の意義を判断し、どのコミュニティに届けるべきかを決めるのは研究者自身です。



英語論文は目的ではなく、研究を届けるための手段


英語論文が評価されてきた背景には、世界中の研究者が知識を共有するための仕組みがあります。


一方で、AI技術の発展によって、この仕組みも少しずつ変化していく可能性があります。


重要なのは、「英語だから価値がある」と考えることでも、「AIがあるから英語は不要になる」と考えることでもありません。


突き詰めれば、重要なのは研究成果を必要としている人に届け、次の研究につなげることです。


その目的のために、どの言語で、どのように発信するかを考える時代になっています。

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