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オープンアクセスを牽引して30年~MDPI CEOに聞く、MDPIのこれまでとこれから

  • 2 時間前
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MDPI CEO Stefan Tochev
MDPI CEO Stefan Tochev

(※本記事は、MDPI30周年記念サイトのCEOインタビュー記事「30 Years of Open Access Leadership」を翻訳したものです)


2026年、MDPIは学術出版社として30周年を迎えます。これを記念し、CEOのStefan Tochevに、25周年から30周年までの歩み、オープンアクセス出版の変化、そして今後の展望について話を聞きました。


  1. MDPIは2026年に学術出版社として30周年を迎えます。25周年から30周年までを振り返って、特に印象に残っていることは何ですか?


この5年間の変化の規模は、非常に大きなものでした。2021年に25周年を迎えた当時、MDPIの従業員数は4,000名でした。現在では、世界24拠点に8,000名を超える社員がいます。今やMDPIは、世界で即時アクセス可能な研究成果のおよそ10%近くを出版するグローバルな学術出版社へと成長しました。


私は2020年にMarketing and Communications部門の責任者としてMDPIに加わり、2023年にCEOに就任しました。CEOとして最も重視してきたのは、業界内で重要なパートナーシップや協力関係を築くことです。


私は、「相手の成功を支援することによって、自分たちの目標も達成できる」と強く信じています。その考え方は、機関との提携拡大、学協会との関係構築、そしてMDPIを単なる出版社ではなく、世界の研究コミュニティをつなぐ存在、さらには他者が活用できるインフラを提供する存在として位置付けることにも反映されています。



  1. MDPIの企業文化はどのように変化してきましたか?創業時の理念は保たれていますか?


MDPIは、創業以来一貫して、「研究者が自身の研究成果をオープンかつ迅速に、そして広く共有できるよう支援する」という理念を掲げてきました。この理念は今も変わっていません。変わったのは、それを実現するための能力です。


創業から最初の25年間に培われた、柔軟性、俊敏性、集中力、そして利益を人材・インフラ・イノベーションへ再投資するというスタートアップ的な精神は、現在も維持されています。一方で、組織としての知見や、業務を支える専門性は大きく成熟しました。


私がCEOに就任した際、MDPIは非常に勢いのある組織でしたが、同時に新たな課題にも直面していました。研究公正性に対する監視の強化、コスト透明性への要求の高まり、AI生成コンテンツへの対応、そして「オープンアクセス率50%を達成すること」と「100%を実現すること」では必要な戦略が異なるという認識です。


私の役割は、組織の成長に合わせてシステムや基準を維持するだけではなく、その先を行く状態を保つことでした。



  1. MDPIは数年の間にResearch Integrity Teamを3倍規模に拡大し、倫理ガバナンスも強化しました。なぜこれほど研究公正を重視したのでしょうか?


信頼こそがすべてだからです。


MDPIは初期の頃、オープンアクセスというビジネスモデル自体が従来と異なっていたため、多くの懐疑的な見方を受けていました。しかし私たちは、一貫した編集品質によって、その疑念を払拭してきました。


一方で、オープンアクセスが一般的になるにつれて、新たな研究公正性の課題も現れました。高度な画像加工、AI生成投稿、そしてOA出版社を狙ったペーパーミルの存在です。


そのためMDPIでは、研究公正性チェックを出版後のフィルターとして扱うのではなく、編集プロセスそのものに組み込む方針を取りました。例えば、画像加工を早期検出するため、Proofig AIと提携を行っています。また、Publication Ethics責任者としてDr. Tim Tait-Jamiesonを任命し、大幅に拡充した体制を統括してもらっています。


ただし、技術だけで十分というわけではありません。Academic Editorは研究公正性を守る最前線にいます。問題を見抜き、適切に対応できるよう支援することは、自動化ツールと同じくらい重要です。両者は連携して機能する必要があります。


現在、MDPIの却下率は約60%であり、300誌以上がWeb of Scienceに、365誌がScopusに収載されています。これは、大規模出版と品質維持が両立可能であることを示しています。ただし、その証明は毎回の投稿サイクルごとに積み重ね続けなければなりません。



  1. 今後10年間で、AIは学術出版をどのように変えていくと考えていますか?


AIはすでに編集プロセスの一部になっています。今後の課題は、「AIを使うかどうか」ではなく、「どのように責任ある形で活用するか」です。


MDPIでは、AIツールは人間の判断を置き換えるものではなく、支援するものとして設計されています。例えばEthicalityは、事前チェック段階で過度な自己引用、AI生成の可能性がある文章、分野外引用などを検出し、編集者が慎重に確認できるよう支援します。


ただし、最終判断を行うのは常に編集者と独立したAcademic Editorです。


今後10年間でAIが出版をどう変えるかについては、まだ答えは出ていません。投稿数は今後も増加し続ける可能性が高く、AIはスクリーニング、分類、検索性向上などにおいて、ますます重要な役割を果たすでしょう。


重要なのは、これらのツールが科学の発展に貢献することであり、科学の信頼性を支える人間の判断を回避する方向に使われないことです。



  1. MDPIは現在、世界の1,000を超える機関と提携しています。これらの関係はどのように変化してきましたか?


大きく変化しました。


5年前、MDPIはまだ「大規模なオープンアクセス出版が成立するのか」を証明している段階でした。現在では、ドイツ、英国、スイス、スウェーデン、ノルウェー、カナダなどの主要コンソーシアムと提携しており、2025年だけでも複数大陸にわたる100以上の機関と新たな提携を構築しました。その中には、インドで初となる提携も含まれています。


しかし、これらは単なる取引関係ではありません。機関側はオープンアクセスの基盤に投資し、MDPIはそれを持続可能にするサービス、透明性、サポートへ投資しています。


私は、オープンアクセスというモデルは不可逆的な流れだと確信しています。ただし、OASPAが2025年に発表した「Embracing the Complexity of '100% OA'」でも示されたように、次の50%は最初の50%よりも難しいものになります。


地理的格差、言語的障壁、分野間の分断などの課題に取り組む必要があり、機関とのパートナーシップはその解決策の一部なのです。



  1. MDPIは25万人を超えるAcademic Editorや査読者と協力しています。これほど大きなコミュニティと、どのように関係を築いているのでしょうか?


成長を続けながらも、人とのつながりを失わないことは可能です。ただし、それには非常に意識的な投資が必要です。


MDPIには、Academic Communityとの関係構築を専門に担当するチームがあります。Editorial Board Memberを直接支援し、学会やイベントでジャーナルを代表し、さらに若手研究者向けの出版ワークショップを実施しています。


彼らは、出版を匿名的で事務的な作業ではなく、人と人との関係に基づく営みとして支えている存在です。


さらに、地域サミット、研究者訪問、編集委員会議なども各地で実施しています。これらは編集者、査読者、機関パートナーが率直に意見交換できる場であり、「何がうまく機能しているか」「何が課題か」を直接聞く機会になっています。


こうした対話は、単なるデータ分析では得られない形で、私たちの運営方針に影響を与えてきました。



  1. MDPIでは年間60万件を超える投稿論文を扱っています。規模拡大と論文の質の維持をどのように両立していますか?


人材とシステムへの投資によって実現しています。


20万人を超える専門査読者ネットワークにより、各論文は適切な専門知識を持つ研究者へ届けられます。また、不自然な投稿パターンや異常を検出するツールによって、編集チームは本当に注意が必要な案件へ集中できます。


却下される約60%の論文は、投稿数調整や権威性演出のためではなく、科学的観点やジャーナル適合性の観点から判断されています。一方で、掲載される40%の論文は、厳格な査読を経て、適切に収載され、誰でも即時アクセス可能な形で公開されています。


その成果として、現在298誌がJournal Impact Factorを取得しており、そのうち193誌は各分野上位50%、61誌は上位25%に位置しています


品質と規模は両立可能です。ただし、それを支える適切な投資が必要です。



  1. MDPIは出版活動以外に、多数の学術会議を開催しています。なぜこれほどイベントに力を入れているのでしょうか?


研究は、出版だけでなく対話によっても前進するからです。


例えば、第11回World Sustainability Forum (WSF11)では、53か国から181名が参加しました。また、クアラルンプールでの第2回International Conference on AI Sensors and Transducers (AIS2025)、バルセロナでのPlants 2025: From Seeds to Food Security、さらにはノーベル賞受賞者Sir Richard Robertsと共にイタリア上院で紹介された2nd International Conference of Environmental Medicineなども開催しています。


これらは周辺的な活動ではありません。MDPIが単なる出版社ではなく、コミュニティ形成を担う存在であることを示しています。


もともとのビジョンは、「ジャーナルそのもの」ではなく「研究者へのサービス」を提供することでした。その考え方は現在、Sciforum(会議プラットフォーム)、10万件以上のプレプリントを有するPreprints.org(プレプリントプラットフォーム)、Academic Publishing Workshop(2025年に400回以上世界の大学で実施)、さらに小規模出版社向けの無料出版基盤であるJAMSへと広がっています。


論文出版は今も中核ですが、私たちは研究エコシステム全体の基盤構築に取り組んでいます。


  1. 2025年のノーベル賞受賞者3名が、過去にMDPIで論文を発表していました。このことをどう受け止めていますか?


これは、MDPIの出版モデル、編集ワークフロー、そしてオープンアクセスへの取り組みが、科学界の最高レベルでも評価されていることを意味します。


ノーベル賞受賞者がMDPIで論文を発表するということは、「オープンアクセス」「厳格な査読」「迅速な公開」が両立可能であるという考え方そのものを支持していると言えます。


これまでの30年間で、40名のノーベル賞受賞者が計120本の論文を発表してきました。


これはまた、投稿審査を行う編集者、研究公正性チェックを担当するIntegrity Specialist、そして世界中の著者を支援するEditorial Teamにとっても大きな励みになっています。



  1. OASPA 2025では、MDPIの役割について率直な発言をされました。どのような意味だったのでしょうか?


ゴールドOAなしに、オープンアクセス率50%は達成できなかった」ということです。そして、その移行に対するMDPIの貢献は、もっと正当に評価されるべきだという意味でした。


MDPIのような完全オープンアクセス出版社は、大規模にインフラを整備し、ビジネスモデルを構築し、「品質」と「オープン性」が矛盾しないことを実証してきました。


しかし時に、私たちはこの運動を推進してきた存在ではなく、問題視される側として扱われることがあります。それに対して、きちんと言葉にする必要がありました。


また、OASPAでの議論は、「オープンアクセス率」から「参加の拡大」へと移りつつあります。オープンアクセス50%は重要な節目ですが、過去5年間だけでも1,000万本の論文が依然として閉じられたままです。


それらは、本来アクセスできるべき研究者、臨床医、政策立案者に届いていません。


完全OA出版社は、購読収益とのバランスを考える必要がないため、この課題に取り組みやすい立場にあります。ただし、私たちだけでは実現できません。次の50%には、謙虚さ、協力、そして新しい試みへの意欲が必要です。


  1. MDPIにとって、今後迎える40周年時点での「成功」とはどのような状態でしょうか?


オープンアクセスがあまりにも当たり前になり、もはや割合を数える必要がなくなることです。


世界中の研究者が、所属機関の予算ではなく、研究内容そのものによって出版機会を得られること。そして、出版社・機関・助成機関が信頼に値するシステムを築き上げることで、オープンサイエンスへの信頼が疑問視されなくなることです。


MDPIは、完成された記念碑のような存在ではなく、進化を続けるプロジェクトです。


私たちは、これからの世代に向けて、知識がどのように生み出され、検証され、共有されるか、その基盤を構築しています。それこそが、私たちを前進させる原動力です。




Stefan Tochev

Chief Executive Officer, MDPI AG

2026年5月

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