CCライセンスはAI利用をどこまでコントロールできるのか――Creative Commonsの新ガイダンスを日本の文脈で読む

自分のコンテンツはAIに学習されたくない。そう思ったとき、CC BYからCC BY-NC-NDのような、より制限の強いライセンスに変更すればよいのでしょうか。
Creative Commons(CC)が2026年9月に公開したガイダンスは、この問いに正面から答えています。そして示された答えは、期待される方向とは少し違うかもしれません。
新しいガイダンスは何を言っているか
CCは2026年9月3日、公式サイトの記事「Guidance on Using CC Licenses in an AI Ecosystem」で、新しいガイダンス「Guidance on CC Licensing in the Age of AI」を公開しました。本体はPDFで提供され、CC BY-SA 4.0のもとで公開されています
(PDFの最終更新日: 2026年8月27日、DOI: 10.5281/zenodo.22261032)。
冒頭のExecutive Summaryに置かれた推奨は、次の3点です。
作品を共有する目的に合致する範囲で、最も許容的で柔軟なCCライセンスを使うこと
より制限的なCCライセンスは、AI利用を防ぐ効果がほとんどない一方で、作品の利用可能性を、とりわけ人間による再利用の場面で狭める可能性があると理解すること
タイトル、著者、出典、ライセンスを明示した、完全なライセンス表示を付すこと
3点とも、CCがこれまで示してきた推奨とほぼ変わりません。では、なぜいま新しい文書が出たのでしょうか。
CCは、ガイダンスと同時に公開したQ&Aページで、この点に触れています。従来の推奨がAI時代にもなお妥当かという問いへの答えは「短く言えば、イエス」であり、それでも新しい報告書を出す理由として、まだ有効であることと、よく理解されていることは同じではない、と説明しています。
つまり今回の眼目は、新しいライセンス方針が示されたことではありません。AI時代にも従来のオープンな方針を変えない理由を、著作権がどこまで及ぶのかという観点から説明し直したことにあります。
CCライセンスは、著作権が及ぶ場面で働く
ガイダンスのBroader Contextは、次の点を出発点に置いています。CCライセンスは著作権法上の許諾を伝えるための仕組みであり、著作権が及ぶ場面でしか力を持ちません。
そのうえで、EU、日本、米国などの法域では、現在のところ多くの形態のAI利用が既存の権利制限規定の範囲に入り、それらの利用は権利侵害にあたらないと述べています。そうした場面では、CCライセンスもその条件も、そもそも適用されません。
したがって、AI利用を防ぐ目的でより制限的なCCライセンスを選んでも、その目的は達成されない可能性があります。
これは、今回のガイダンスだけの新しい解釈ではありません。CC 4.0ライセンス自体が、同じ内容を条文として定めています。たとえばCC BY 4.0のLegal Code第2条(a)(2)は、著作権の例外または制限が適用される利用については、このパブリック・ライセンスは適用されず、その条件に従う必要もない、と明記しています。
NCやNDという条件が付されていても、その利用について著作権法上、権利者の許諾が不要であれば、CCライセンスの条件は適用されません。ライセンスの文面を読む前に、その利用に権利者の許諾が必要なのかどうかを確認する必要がある、ということです。
日本ではどう読めばよいか
日本の著作権法にも、関連する規定があります。
著作権法三十条の四は、著作物に表現された思想・感情の享受を目的としない利用について、一定の要件のもとで権利を制限する規定です。AI開発のための学習も、その適用が検討される代表的な場面として説明されています。
ただし、この規定は無条件ではありません。文化庁の整理によれば、享受を目的とする利用が併存する場合には適用されません。また、著作権者の利益を不当に害することとなる場合を除外するただし書も置かれています。
さらに、ひとくちにAI利用といっても、学習用データとしての利用、RAG(検索拡張生成)のためのデータベース構築、そして回答の生成では、法的な扱いが同じとは限りません。目的や仕組みによって適用される規定が変わり得る点については、文化庁が「文化芸術活動に関する法的問題についてよくあるご質問」で平易に整理していますので、そちらをご参照ください。
なお、文化庁の「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月)は、現行法についての考え方を公表時点で整理したものであり、それ自体に法的拘束力を有するものではないと明記されています。個別の事案がどう判断されるかは、最終的には裁判所の判断によります。
ここで確認したいのは、日本でAI学習が自由だということではありません。そうではなく、NDやNCという文字列そのものがAI利用を禁止するわけではない、ということです。その利用に著作権が及ぶのか、及ぶとして権利制限規定が適用されるのか。順序としては、そちらが先に来ます。
起こり得る逆転
ここまでを整理すると、次のような構造が見えてきます。
「AI対策としてNDを選ぶ」
↓
権利制限規定が適用されるAI利用には、
ND条件が働かない場合がある
↓
一方、人間が翻訳・翻案など
許諾を要する改変をしたものを
公開・共有する場合には、
NDが実際に制約として働く
場合によっては、制限したかったAI利用には効かない一方で、人間による再利用を狭めるという逆転が起こり得ます。
ガイダンスも、より制限的な条件で共有することの帰結として、利用できる公共的な資源、すなわちコモンズが縮小し、研究者、教育者、アーカイブ担当者、そしてオープンアクセスに依拠する公益的な利用に回る素材が減ると指摘しています。
NCやNDに意味がない、という話ではない
誤解を避けるために書き添えると、NCやNDが不適切な選択だという話ではありません。
改変されたものの公開・共有を認めたくない明確な理由があるなら、NDを選ぶ意味はあります。NC条件の対象となる営利的な利用を許諾したくない場合には、NCを選ぶ意味があります。CC自身、文脈によっては追加的な制限が必要になる場合があることを認めたうえで推奨を組み立てています。
問題になるのは、選択の理由がAI対策である場合です。その理由だけでライセンスを制限的な方向に変更すると、想定した効果が得られないまま、人間による再利用の側にだけ制約が残ることになりかねません。
分野ごとの推奨
ガイダンスは、CCの法的ツールを多く使っている3分野について、それぞれ推奨を示しています。ここでは、本記事の読者と特に関係の深いオープンサイエンスとオープンカルチャーを取り上げます。
オープンサイエンスの分野では、CC0(帰属表示を要請する運用)とCC BYを推奨しています。ここで補足しておくと、CC0はライセンスではなく、法律上可能な範囲で著作権などの権利を放棄し、作品をできる限りパブリックドメインに置くためのツールであり、帰属表示を法的な条件として要求しません。CCは、帰属表示を法的義務としてではなく、研究や学術の慣行にもとづく要請として位置づけています。
オープンカルチャーの分野、つまり図書館、文書館、博物館などが扱う文化遺産コンテンツについては、CC0、パブリックドメイン・マーク、CC BY、CC BY-SAを挙げています。資料の種類に応じたより細かな推奨は、CCが別途公開している「Recommended Licenses and Tools for Cultural Heritage Content」にまとめられています。
なお、論文本文と研究データ、データセットでは、内容や利用目的に応じて適切なライセンスが異なり得ます。CC0とCC BYの推奨を、すべての研究成果に一律に当てはめるものではありません。
ガイダンス自身も、研究論文に付随するデータセットと文化遺産資料のデータセットとでは性質が異なり、データセットに含まれる内容によって推奨するライセンスも変わってくると述べています。オープンサイエンスの推奨が参照している詳細資料「Licensing Best Practices for the Sharing of Scientific Data」(2026年4月)も、対象をサイエンスデータだとしています。
ライセンスだけでは扱えない部分
ガイダンス自身、ライセンスだけではAIをめぐる課題をすべて扱えるわけではないと認めています。
その外側にある課題に向けて、CCが開発を進めているのがCCシグナル(CC Signals)です。AI利用に関する期待を伝える機能を含め、法的・技術的・規範的な手段を組み合わせて、コンテンツやデータをAIがどのように利用するかについて、提供者側の意思をより反映できる仕組みが検討されています。
CCシグナルは、完成した新しいCCライセンスではありません。2026年には、単なる選好の表示にとどまらず、法的な実効性を持つ仕組みも含めた開発へと範囲が広がっています。現在はMozilla Data CollectiveやRSL Standardとのパイロットなどを通じて検証が進められており、Mozillaとの取り組みでは、CCシグナルに一定の法的実効性を組み込む方法を試すとされています。
ライセンスを決める立場の方へ
紀要や機関リポジトリ、あるいは学協会誌で公開ライセンスを決める場面では、次の順序で確認すると整理しやすいかもしれません。
自分たちは何を制限したいのか
その利用に著作権が及ぶのか。及ぶ場合、権利制限規定が適用されるのか
そのライセンスを選ぶことで、人間が翻訳・翻案など許諾を要する改変をしたものを公開・共有する場面にどのような制約が生じるのか
「AIに使わせたくないからND」という一段階の判断では、1と3の間が埋まりません。2を挟むことで、選んだライセンスが何に効いて何に効かないのかが見えてきます。
AIをめぐる状況は変化の途上にあり、今回のガイダンスも、各国の立法や裁判所の判断によって前提が変わり得ることを明記しています。そのうえでガイダンスが示しているのは、AIへの賛否だけでライセンスを選ぶのではなく、そのライセンスが法的に何を制御でき、誰のどのような利用を制限するのかを確認してから選ぶ必要がある、ということです。
本記事は法的助言ではありません。個別の判断にあたっては、所属機関の規程や専門家の確認をご検討ください。


