MDPIの研究は社会をどう変えてきたか ― 30年の歩み
- 1 時間前
- 読了時間: 10分

(※本記事はmdpi.comの英文ブログ記事「Insights Into 30 Years of Impactful MDPI Research」を翻訳したものです)
2026年は、MDPIの創立30周年にあたります。そこで本記事では、各国政府や公的機関、国際組織の重要な政策文書で取り上げられ、社会に意味のある影響を与えてきたMDPIの研究をご紹介します。
この30年でMDPIの多彩なジャーナルに掲載された、基盤となる研究を取り上げます。気候、サステナビリティ、健康、教育など、さまざまな分野の研究が含まれます。
目次
Reconstructing Three Decades of Land Use and Land Cover Changes in Brazilian Biomes with Landsat Archive and Earth Engine
The Effects of Historical Housing Policies on Resident Exposure to Intra-Urban Heat: A Study of 108 US Urban Areas
The Impact of Female Role Models Leading a Group Mentoring Program to Promote STEM Vocations among Young Girls
Food Swamps Predict Obesity Rates Better Than Food Deserts in the United States
Introducing the "15-Minute City": Sustainability, Resilience and Place Identity in Future Post-Pandemic Cities
Reconstructing Three Decades of Land Use and Land Cover Changes in Brazilian Biomes with Landsat Archive and Earth Engine
Remote Sensing、2020年8月|Instituto do Homem e Meio Ambiente da Amazônia, Brazil

「地球の肺」とも呼ばれるアマゾンの熱帯雨林は、陸上で生み出される酸素の16%を担い、世界の生物種のおよそ10%が暮らしています。広大な森に3,900億本もの樹木を育むアマゾンを保全することは、生息地を守り、生態系を保ち、気候変動のなかで失われつつある地球の生物多様性を維持するうえで欠かせません。
農業や紛争、気候変動といった要因は、熱帯雨林をはじめとする環境に大きな影響を及ぼします。アマゾンの保全と持続可能な発展に取り組む地域有数の研究機関Imazonの研究者たちは、衛星画像を用いて、アマゾンの生物群系における30年以上にわたる土地利用・土地被覆(LULC)の変化を地図化しました。
550万~670万平方キロメートルに及ぶアマゾンを正確に地図化することは、この地域の全体像を把握するうえで重要であり、ブラジルの環境政策や意思決定の土台にもなります。こうした背景から、本研究は重要な政策文書にも取り入れられています。その一例が、アマゾンを含む炭素を多く蓄える地域での畜産拡大を検証した、欧州委員会の最終報告書です。
生態系が時間とともにどう変化してきたかを理解することは、貴重な自然とそこに暮らす生物種を守るために欠かせません。重要な熱帯雨林を地図化したこの研究のように、社会に影響を与える研究は、世界の政策・意思決定の担い手にしっかりとした土台を提供する役割を担っています。
The Effects of Historical Housing Policies on Resident Exposure to Intra-Urban Heat: A Study of 108 US Urban Areas
Climate、2020年1月|Science Museum of Virginia, Virginia Commonwealth University, & Portland University, USA
気候変動は、環境や生物の生息地に深刻な打撃を与えるだけでなく、地域社会や、人々が安全で手ごろな住まいを得られるかどうかにも波及します。
Climate誌に掲載された研究は、地表面の温度上昇とともに米国の住宅政策がどう変わってきたかを検証し、立場の弱い民族集団が、極端な暑さにさらされる地域に偏って住まわされてきた実態を明らかにしています。こうした違法で差別的な慣行は「レッドライニング(redlining)」と呼ばれ、少数民族をさらに社会の周縁へと追いやり、その健康や安全、暮らしの質に大きな影響を及ぼしてきました。

研究チームは、米国の108の都市部を対象に空間分析を行いました。その結果、調査対象の94%の地域で、レッドライニングを受けた区域は隣接する区域に比べて最大7℃も気温が高いことがわかりました。特定の集団が暮らす地域にこうした都市のヒートアイランドが重なっている事実は、気候変動がまず立場の弱いコミュニティを直撃し、社会経済的な格差や健康格差を広げていることを裏づけます。都市のなかで最も暑い場所が、不利な状況に置かれた人々の住む地域と重なりやすいという発見は、気候変動が最も弱い立場の人々を真っ先に苦しめ、社会的・健康的な不平等を一段と大きくしがちであることを示しています。
世界中の政策立案者や科学者は、極端な暑さがもたらす危険と、それが安全で手ごろな住まいの確保に及ぼす影響に取り組む必要があります。気候変動の不均衡な影響に光を当てる研究は、進行中の気候評価や、環境保健・健康の公平性に関する文書、地球規模の変化に向けた戦略のなかで引用されることを通じて、問題への気づきを広げ、今後の取り組みに判断材料を与えるうえで欠かせない役割を果たしています。
The Impact of Female Role Models Leading a Group Mentoring Program to Promote STEM Vocations among Young Girls
Sustainability、2022年1月|University of Deusto, Spain
労働市場における男女格差は広く知られているにもかかわらず、米国のSTEM分野で働く人のうち女性は今なお34%にとどまっています。科学・技術の分野は歴史的に男性が中心で、その状況は今も続いています。この格差の背景には、文化や環境要因、そして指導的・影響力のある立場に女性が少ない状態が続いてきたことの影響を受けた、根深く構造化されたジェンダー観があります。
科学・技術分野の男女格差に向き合うことは、若い女性がSTEM分野に進むよう後押しする、より良い教育の進め方や教育政策を広げ、格差を縮めていくうえで大切です。

Sustainability誌に掲載された研究は、STEM分野で活躍する女性がロールモデルとして若者向けのメンタリングを率いることで、STEM科目や将来のキャリアに対する意識に違いが生まれるかを分析しました。その結果、この取り組みは科学・技術に対する生徒の意識を高め、特に女子生徒で効果が大きく、将来STEM分野でのキャリアを目指す意欲が高まったことがわかりました。
ただし、数学の力に対する意識はジェンダーの固定観念に沿ったままで、女子生徒は男子生徒に比べ、自分の数学的な能力をより否定的にとらえる傾向が残りました。
STEM分野の男女格差について若者の意識を高めることは、教育者がこうした格差を縮めていくうえで引き続き重要です。教育におけるジェンダー差を扱ったOECDの報告書でも取り上げられたこの研究は、利用しやすさを高めること、リーダーの地位に女性がいること、そして安心して信頼できる場をていねいに整えることが、若者の自信を育み、将来への準備を支える要素になると結論づけています。
Food Swamps Predict Obesity Rates Better Than Food Deserts in the United States
International Journal of Environmental Research and Public Health(IJERPH)、2017年11月|University of Connecticut & Duke University, USA
この10年で積み重なってきた研究は、超加工食品(UPF)を長く摂り続けることの弊害を明らかにしてきました。肥満や代謝障害、その他の非感染性疾患の発症などです。
超加工食品は人口の多い都市部でますます手に入りやすくなっており、より健康的な暮らしを送ろうとする人にとって見過ごせない課題となっています。
「フードスワンプ(食の沼)」とは、ファストフード店が密集した地域を指す言葉で、食環境を分類するための見方のひとつです。同誌に掲載された研究は、米国農務省(USDA)の食環境地図(Food Environment Atlas)の社会人口統計データと肥満データを分析し、フードスワンプが肥満の指標になるかどうかを探りました。その結果、フードスワンプが成人の肥満率の上昇と直接結びついていることが確認されました。

より具体的には、交通の便が悪く、人々の移動が限られる地域ほど、超加工食品が肥満に与える影響が強いことがわかりました。これは、食料品店での買い物に比べてファストフードのほうが手軽で入手しやすいという見方を裏づけます。さらに見逃せないのは、所得格差の大きい地域でこうした影響がいっそう強く表れた点です。
『WHO European Regional Obesity Report 2022』でも取り上げられたこの研究は、肥満がどのように生じるのかを理解することの緊急性を強く示しています。たとえば、低所得世帯の多い地域では新鮮な食材が買われにくく、より安価な超加工食品が選ばれやすいため、階層によって食生活に大きな偏りが生まれます。その結果、恵まれない地域に暮らす人ほど、肥満をはじめとする深刻な健康問題を抱えやすくなります。
肥満は、がんや2型糖尿病、心血管疾患といった、慢性的で命にかかわることも多い病気のリスクを大きく高めます。飲食店に対するより厳格で戦略的な規制は、都市計画や食の安全保障、そして誰もが健康に暮らせる環境づくりにとって、ますます重要になっています。
Introducing the "15-Minute City": Sustainability, Resilience and Place Identity in Future Post-Pandemic Cities
Smart Cities、2021年1月|IAE Paris Sorbonne Business School, France
「15分都市」は、フランス系コロンビア人の研究者カルロス・モレノ(Carlos Moreno)氏が提唱した都市計画の考え方で、サステナビリティ、安全性、包摂性を軸とした枠組みです。
この考え方は、IAEパリの研究者たちによる2021年のパースペクティブ論文で取り上げられ、その革新的な構想と今後の展望が論じられています。
論文が発表された当時、「15分都市」という考え方はしだいに勢いを増していました。より安全で持続可能、かつ強靭な都市とコミュニティをつくるという、持続可能な開発目標(SDGs)の目標11の達成につながる可能性に、関心が高まっていたのです。
こうした関心は、新型コロナウイルスの感染拡大後に続いた社会経済の危機によって、いっそう高まりました。経済が縮小し、都市部の多くのコミュニティが、心理社会的にも経済的にも大きな困難に直面したからです。
「15分都市」の枠組みは、日々の暮らしに必要なものやサービスのすべてに、徒歩でも自転車でも公共交通でも、15分以内で行き着けるという考え方を大まかに表しています。

この優れた構想がもたらしうる利点としては、時間の節約、より活動的な暮らしの後押し、大気汚染や騒音の軽減、緑地への行きやすさの向上、そして自動車での移動にかかる費用の負担を軽くすることなどが挙げられます。
「15分圏」のルールに合わせて都市をつくり替えるには、必要なインフラを整えるための専門的な計画と戦略が膨大に求められます。
その実現を進めるには、都市計画、交通、住宅の各政策にたずさわる人々の連携が欠かせません。2025年には、国連人間居住計画(UN-Habitat)が、空間的包摂とコミュニティの強靭性に関する地域ごとの動向や進展を示す報告書を公表しました。
この報告書は、15分都市が空間的包摂を立て直すための注目度の高い解決策であるとし、低所得世帯に等しい社会経済的機会と包摂をもたらすうえでの重要性を強調しています。
パリは15分都市という考え方を牽引し、市民の暮らしの質を高めるために、都心部のインフラを戦略的につくり替えてきました。このモデルの導入は2020年に始まり、2021~2022年のWRI Ross Center Prize for Citiesのファイナリストに選ばれたこともあって、世界的な動きを生み出しました。上海やメルボルン、オタワなど、他国の都市がこのモデルを取り入れるきっかけにもなっています。
住民のニーズを優先し、必要な施設に15分以内で行けるようにすることで、人々は持続可能で心地よい環境のなかで暮らしやすくなります。
15分都市を他の都市に広げていくうえでは、その進め方を最適化し、想定される障壁を見極めるために、さらなる研究が必要です。
この30年間、MDPIは「科学的な知識は、誰もがすぐに、自由に共有できるものであるべきだ」という信念を土台にしてきました。ひとつのアイデアとして始まった取り組みは、500誌を超える完全オープンアクセスのジャーナル群へと育ちました。私たちのジャーナルを支えているのは、知識のやり取りを可能にする、研究者や編集者、査読者からなる世界中のコミュニティです。
MDPIの30周年について詳しくは、こちらをご覧ください。


