【夏休み特別企画】子どもの自殺はなぜ過去最多に? サブカルチャーの二面性と見えないSOS ─ 今高城治先生インタビュー
- 7月23日
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最新の発表によると、小中高生の自殺者数は過去最多を更新し、高止まりの状況が続いています。少子化で子どもの数が減っているにもかかわらず、なぜ子どもの自殺は増加し続けているのでしょうか。
MDPIのジャーナルDiseasesに「Youth Suicide in Japan: Exploring the Role of Subcultures,Internet Addiction, and Societal Pressures(日本の若者の自殺問題:サブカルチャー、インターネット依存、社会的プレッシャーの役割を探る)」というレビュー論文を発表された、獨協医科大学医学部小児科学の今高城治先生に、現代の子どもたちが抱える複雑な背景と、社会や大人がどう向き合うべきかをお伺いしました。
夏休みを迎える子どもたちの現状と、低年齢化する自殺の危機
── 最新の統計で小中高生の自殺者が過去最多水準となり、特に8~12歳の「プレティーン」の増加などが示されました。昭和の時代に比べ、子どもの人権やメンタルヘルスへの配慮は進んでいるように見えますが、なぜこのような現状となっているのでしょうか。
2006年の自殺対策基本法に基づくさまざまな取り組みにより、日本全体の自殺者数は2003年の約34,400人から、2024年には約20,300人と4割近く減少しています。大人の自殺が減っているということは、大人にとっては生きやすい社会が作られていると言えます。
しかし、少子化で子どもの数が減っているにもかかわらず、子どもの自殺者数だけが増加し続けているのです。これは単なる数字の問題ではなく、子どもたちが非常に過酷で生きにくい環境に置かれているという、社会構造上の問題があるというサインとして捉えるべきです。
年間を通して子どもの自殺が最も多いのは、長期休業明けの9月1日前後です。北海道や東北など夏休みが短い地域では8月末から増え始めます。これを受けて、文部科学省からも7月3日に児童生徒の自殺予防に係る取組への通知が出されました。夏休み中にスマートフォンなどに触れる時間が増え、SNS等で24時間心が休まらない環境にあることや、生活リズムの変化が影響していると考えられます。
── 睡眠不足やブルーライトの影響も危険因子として挙げられていますね。
日本人の睡眠時間はOECD諸国の中で最も短いです。睡眠には子どもの脳や感情を整理し浄化する機能がありますが、睡眠不足が続くと判断力や感情を調節する前頭前野の機能が落ちます。思春期はもともと感情を司る扁桃体が活発になる時期であり、そこにスマートフォンの24時間社会による慢性的な睡眠不足が加わると、些細な失敗や人間関係の問題を必要以上に深刻に受け止めてしまいます。夜間に動画やSNSの通知を気にして心が休まらず、常に他人と繋がっていないと仲間から外されてしまうという不安に駆られる「眠らない社会」を作っている大人の側の責任でもあります。
日本独自の「サブカルチャー」が若者の心理に与える複雑な影響
── 先生は論文で、文学やアニメ、音楽作品などが若者の自殺問題に複雑に絡んでいると指摘されていますね。この「サブカルチャーの二面性」を大人はどう理解すべきですか?
サブカルチャーが単純に若者を自殺に向かわせているわけではありません。例えば、日本の文学やアニメ、現代のJ-POPやボーカロイド楽曲などは、若者の孤独や絶望、矛盾を代弁してくれます。自分の気持ちをうまく言語化できない若者にとって、これらの作品は心の拠り所や避難場所となっており、それに救われて生き延びている子もたくさんいるのです。
一方で、自己否定的な作品や死を美化するコンテンツに過度に没入してしまうリスクもあります。また、著名人の自殺報道などがSNSで瞬時に拡散され、後追い自殺を誘発する「ウェルテル効果」も懸念されます。報道機関が自殺の手段を具体的に伝えたり、「死は避けられなかった」といったトーンで報じたりすることは非常に危険です。メディアは「子どもがどこにSOSを出せばいいか」という相談先へのアクセス手段をセットで周知するなど、社会全体で大きな配慮をすることが求められます。
自傷行為・オーバードーズの心理とポップカルチャー化
── 自傷行為やオーバードーズについて、「見える自傷」と「見えない自傷」の違いや、これらが若者の間でポップカルチャー化している現状について教えてください。
腕に包帯を巻いたり絆創膏を貼ったりする「見える自傷」は、周囲へのSOSのアピールとして分かりやすいですが、最近では中学生くらいから入れるピアスやタトゥーなども、自分の体を痛めつける行為として自傷行為の代替となっている可能性があります。これらはファッションや自己主張の一つの文化として捉えられがちですが、その背景に心の深刻な問題が重なっていることも少なくありません。
一方で、より対応が難しく問題なのは「見えない自傷行為」です。その代表がオーバードーズ(過量服薬)です。現在「オーバードーズ」は人気アーティストの曲名にもなり、小学生でも知っている言葉として若者文化に浸透しています。成績も落ちず、不登校でもない子が、極端な睡眠不足や食事を摂らないなど、見えないところで自分を社会から切り離すような行為に走ることがあります。
自傷行為やオーバードーズの多くは、死ぬことが目的ではなく、耐え難い心の苦痛を一時的に和らげるための対処行動です。大人から見れば単なる遊びの延長やファッションのように見えても、頭ごなしに否定するのではなく、言葉にできない苦しみがSOSとして行動に表れていることに気付くことが大切です。
社会の構造的課題と、「命の大切さ」を説く道徳教育の限界
── 論文の中で、ただ「命の大切さ」を説く従来の道徳教育が、苦しむ若者を逆に追い詰めるリスクがあると指摘されていた点がハッとさせられました。今後、教育や社会はどう向き合うべきでしょうか?
これまでの学校教育では「命を大切にしよう」「家族が悲しむからやめよう」と教えることが一般的でした。しかし、すでに「自分には価値がない」「周囲に迷惑をかけている」と思い詰めている子どもにそれを強調すると、「死にたいと思う自分はさらに悪い人間なんだ」と自己否定感を深めてしまうリスクがあります。ただ「命の大切さを説くだけの精神論」は、今の時代には合っていません。
私の論文でも、ゲームやサブカルチャーを悪者として排除するのではなく、多角的な視点で子どもたちの心を理解するためのものとして考察しています。大切なのは、インターネットやSNSを単に取り上げたり規制したりするのではなく、デジタルインフラを適切に利用しながら「助けてと言っていい」「自分の弱さを見せてもいい」と教え、困った時に相談できる窓口へ安全にアクセスできる構造を作ることです。
夏休みを安全に過ごすために ―― 家族と社会へのメッセージ
── 最後に、夏休み期間中、家庭で子どもたちを見守る親御さんに向けて、注意すべきSOSのサインや関わり方のアドバイスをお願いいたします。
子どもの自殺は個人の問題や家庭の問題ではなく、社会の構造上の問題が背景にあることをまず理解してください。見えない自傷や行動パターンの変化は、言葉にできない苦しみのSOSです。もし「消えてしまいたい」といった様子が見られた時は、「そんなこと言ってはいけない」と曖昧にしたり蓋をしたりせず、落ち着いて話を聞いてあげてください。
国も対策を強化しており、今年7月からはこども家庭庁が中心となり、QRコード付きのステッカーやカードを配布する取り組みが始まりました。このQRコードを読み込むと、LINEやチャット、電話など、10種類以上の公的な相談窓口にワンストップでアクセスできるようになっています。

また、国は毎年9月10日〜16日を「自殺予防週間」、3月を「自殺対策強化月間」と定めて支援を行っています。親や子ども同士だけで抱え込まず、カウンセラーや医療機関、こうした専門の相談機関の力を積極的に借りることが大切です。社会全体で、子どもたちが安心して弱音を吐ける場所を作っていくことが求められています。
【相談窓口のご案内】
悩みや不安を抱えている児童生徒の皆さんや、ご家族からのご相談はこちらの窓口をご利用ください。 検索サイトで「死にたい」と検索した場合も、これらの相談窓口が最上位に表示される仕組みが整備されています。
・24時間子供SOSダイヤル(無料) 0120-0-78310(なやみいおう)
今高 城治(いまたか・じょうじ)先生プロフィール
1994年、獨協医科大学医学部を卒業後、慶應義塾大学文学部・法学部、早稲田大学人間科学部eスクールを卒業。現在、獨協医科大学医学部小児科学教授を務める。同大学を拠点に研究・教育・臨床に携わる一方、防衛省特別職国家公務員医官(二等陸佐)、ローマ・バチカン市国バンビーノジェズ客員教授(2016~2017)、英国アングリア・ラスキン大学MBAなど、国際的かつ多方面にわたる活動を展開している。

