ここが知りたい!MDPI③ 研究不正への対応と出版倫理
- info-tokyo8
- 11 分前
- 読了時間: 4分

近年、研究成果の信頼性をめぐる議論が世界的に活発になっています。実際に、内容に誤りがあった等の理由で論文が「撤回」される件数が増えていることが、日本の公的研究機関による分析として報じられています。
撤回の背景には、研究不正だけでなく、誤りの発見・申告や出版社側の調査体制の整備など、複数の要因が重なり得ます。いずれにせよ、読者・研究者・大学としては「出版社やジャーナルが、研究不正にどう対処しているか」を確認する重要性が高まっています。
本記事では、MDPIの研究不正や出版倫理に関する考え方と、投稿前(予防)~公開後(訂正・撤回)までの仕組みの概要をご紹介します。こちらのページに英語で記載されている内容をもとにしています。
1. MDPIの基本方針:予防・中立性・透明性・一貫性
MDPIは、出版倫理に関する国際的な枠組みである出版倫理委員会(COPE)の原則に従い、出版倫理ポリシーを整備しています。MDPIが掲げる原則は、次の4点です。
予防(Prevention):自動チェックと手動チェックを組み合わせ、早期に懸念点を検知する
中立性(Neutrality):必要に応じて学術記録を訂正し、特定の立場に偏らない
透明性(Transparency):可能な範囲で関係者に状況を共有し、説明の機会を確保する
一貫性(Consistency):標準化された手順に沿って調査・判断する
また、編集判断は編集委員会が担い、出版社が学術的判断に介入しないことも明言しています。
2. 投稿前~査読中:問題を「起こさない/見落とさない」ための仕組み
研究不正への対応は、公開後の撤回だけではありません。重要なのは、投稿段階での予防です。MDPIでは、投稿原稿に対して、複数のチェックを組み合わせる方針を公表しています。
2-1. 盗用・重複の検知(剽窃チェック)
MDPIでは、投稿原稿を剽窃検知ツール(iThenticate)で確認しています。問題が疑われる場合、査読中であれば却下、公開後であれば調査と対応を行う流れです。
2-2. 画像・データの確認(画像加工・データ改ざん等への対応)
画像やデータに懸念がある場合、元データ(未加工データ)や高解像度の原画像の提出を求めること、必要に応じて査読プロセスを止めて確認しています。
2-3. 査読者の選定と利益相反(COI)
査読者の選定について、利益相反がないこと、同一機関でないこと、直近の共著関係がないこと等の基準が明記されています。著者による査読者推薦は可能ですが、利益相反がある候補は採用していません。また、編集者が自分の論文に関与しない(特集号のGuest Editorは自分の論文を最終判断できない)ことも明確化されています。
3. 公開後:訂正・撤回で「学術記録を更新する」仕組み
出版倫理で特に重視されるのは、問題が起きたときに「なかったこと」にするのではなく、学術記録としてどう扱うかです。MDPIは、公開後の更新(Updating Published Papers)について、更新区分と取り扱いを示しています。
3-1. 訂正(Corrections):軽微/重大を区別
MDPIでは、訂正をMinor / Majorに区別し、科学的結論への影響度に応じて対応する枠組みを採用しています。
3-2. 懸念表明(Expression of Concern):調査中・結論未確定の場合
事案が複雑で結論が出るまで時間がかかる場合などに、読者へ注意喚起する「Expression of Concern(懸念表明)」を出す場合もあります。
3-3. 撤回(Retraction):撤回後も記録は残し、識別可能にする
撤回となった場合、MDPIでは、元論文に「RETRACTED」等の表示を施したうえで、将来の参照のためにジャーナルサイト上で閲覧可能な形を基本としつつ、撤回告知を同様に掲載する方針を示しています(例外的に、裁判所命令やプライバシー侵害等の特殊事情で全面削除が必要な場合のみ、メタデータを残す等の対応)。
4. 透明性:オープン査読という選択肢
MDPIでは、著者がオプトインする形で、査読コメントと著者回答を論文とともに公開するオープン査読を選択できます(査読者の実名公開は任意)。透明性を重視したい場合、こうした仕組みを検討できる点は一つの判断材料になります。
5. 著者・大学側でできる「研究公正のための備え」
出版倫理は出版社だけで完結するものではなく、著者・研究室・大学の体制とも密接に関係します。実務的に有効な備えとしては、例えば次のような点が挙げられます。
利益相反(COI)や資金源の申告を、投稿時点で整理しておく
画像・元データ・解析ログ等を、後から提示できる形で保管しておく(問い合わせ対応の迅速化につながります)
著者要件・倫理審査・データ共有要件など、分野固有の要件を投稿前に再確認する
6. おわりに
MDPIは、投稿前の予防的チェックと、公開後の訂正・撤回の枠組みを通じて、学術記録の信頼性を保つことを重視しています。研究成果が正しく評価・活用される環境づくりの一助として、本記事がお役に立てば幸いです。
具体的な運用はResearch and Publication Ethics(研究倫理・出版倫理)ページに集約していますので、必要に応じて原文もあわせてご参照ください。



