学会誌は誰が、どう支えているのか―J-STAGEと委託業務から見る日本の学協会出版

学会誌の発行には、原稿の受付や査読だけでなく、採択後の編集、組版、校正、電子公開のためのデータ作成など、多くの作業が伴います。日本では、こうした作業を学協会自身が担っている場合もあれば、その一部または全部を学術系の印刷会社や学協会支援を行う事業者に委託している場合もあります。
電子公開については、科学技術振興機構(JST)が運営するJ-STAGEが重要な基盤となっています。2026年3月末時点で4,396誌が収録されており、J-STAGEは論文の公開基盤を原則無料で提供するとともに、有料の投稿審査システムも用意しています。それでも、学協会が担う仕事や、外部に委託する仕事がなくなるわけではありません。
本記事では、学協会の組織的な特徴とJ-STAGEの役割を踏まえ、学会誌の出版がどのような分業によって成り立っているのかを整理した上で、全文XML化を控えた今、学協会が自誌について確認しておきたいことを考えます。
日本の学協会はどんな組織か
日本学術会議の学会名鑑には、協力学術研究団体として2,100以上の学協会が掲載されています。これらの団体がどのような組織基盤を持っているかを知る手がかりとして、やや古いものですが、日本学術会議が2007年に実施した学術団体調査があります。約1,760団体を対象に行われ、1,021団体から回答を得たこの調査では、正会員1,000人未満の団体が57.6%を占め、事務職員のいない団体が39.1%、定常的な事務所を持たない団体が30.7%にのぼりました。20年近く前の数値であり、現在の比率をそのまま示すものではありませんが、小規模で事務基盤の限られた学協会が多数存在してきたことは読み取れます。
興味深いのは外部委託に関する回答です。同じ調査で、管理事務の一部を外部に委託している団体は27.9%にとどまり、47.1%は委託の必要がないと答え、22.9%は財政上の理由で委託できないと答えています。事務基盤が弱ければ外部に頼る、という単純な図式にはなっていません。委託する必要を感じていない団体がある一方で、委託したくても費用を確保できず、研究者自身が事務を担っている団体も相当数あったことになります。外部委託が合理的であることと、実際に外部委託できることは、別の問題です。
なお、この調査は管理事務全般について尋ねたものであり、学会誌の出版業務の委託状況を示すものではありません。
もう一つ、学協会の運営を特徴づけるのが事務局の交替です。国立国会図書館が2020年4月に『びぶろす』誌で報告した調査(「日本の学術情報における灰色文献 ―国立国会図書館による学協会誌、会議録の収集・提供強化への取組」)では、納本していない理由として、事務局の変更に伴う引き継ぎ不足や納本方法が分からないといった回答が合わせて約20件ありました。その背景として、学協会では会員の持ち回りや事務委託先の変更などによって事務局が交替することが多いと考察されています。
この報告が確認しているのは納本業務の引き継ぎですが、事務局の交替によって業務の引き継ぎに問題が生じる例が報告されていることは、学協会の運営を考えるうえで見過ごせません。担当者が交代しても業務を続けられる体制をどう作るかは、学協会にとって現実的な課題だといえます。
J-STAGEが提供していること、残る実務
J-STAGEがどのような機能を提供し、どのような業務を発行機関が担う必要があるのかを分けて見ると、学協会に残る仕事の輪郭がはっきりします。
まず、基本サービスとしてJ-STAGEは、論文の公開基盤を原則無料で提供しています。公開した記事にはDOIが登録され、全文HTMLの表示、引用文献へのリンク、アクセス統計などの機能も利用できます。J-STAGEを利用する学協会は、自前で公開プラットフォームを構築し、維持する必要がありません。
次に、有料オプションとして、J-STAGEは投稿審査システムも提供しています。Editorial ManagerやScholarOne Manuscriptsといった国際的に利用されているシステムをJ-STAGE経由で利用でき、投稿の受付から査読、編集審査、進捗管理までを扱えます。利用には採択審査が必要です。
ここで重要なのは、J-STAGEの案内に示されている役割分担です。投稿審査システムを利用する場合でも、実際の投稿受付は事務局が、査読は査読者が、審査は編集委員会が担当します。システムはこれらの業務を支援しますが、業務そのものを運営するわけではありません。原稿の体裁を整える組版、J-STAGEへ登載するためのデータの作成、登載後の修正といった作業についても、発行機関が自ら行うか、外部に委託して対応する必要があります。
つまり、公開基盤と投稿審査システムが用意されていても、それを動かす人と、組版や登載データ作成の実務は、学協会自身か、学協会が委託した先に残ります。システムを利用できることと、投稿・査読・制作の業務を誰かが運営してくれることは、別のことなのです。
出版業務の分担のかたち
残った実務をどこが担うかによって、学会誌の運営体制はいくつかの形に分かれます。学協会自身がシステムを利用し、編集事務から制作までを内部で担う形もあれば、システムの操作は学協会側で担いながら、組版やXML作成といった一部の制作工程だけを外部に委託する形もあります。さらに、編集事務、組版、登載、事務局対応までをまとめて外部に委託する形もあります。
委託を受ける側の公開情報を見ると、この分担の幅がよくわかります。学術系の印刷・出版支援会社の中には、採択原稿の編集・校正、組版、JATS XMLの作成、J-STAGEへの登載支援までを一連の工程として提供しているところがあります。同じ事業者が、学協会が別の投稿審査システムで受理した原稿の制作だけを請け負う形と、編集事務や投稿審査システムの運用、電子公開までを一括で受託する形の両方を用意している例もあります。
どの形を選ぶかは、システムの機能だけでなく、学協会側の条件にも左右されます。専任の職員がいるか、担当者がどのくらいの頻度で交代するか、委託にどれだけの予算を割けるか、といった条件です。先に見た2007年の調査が示すように、委託を必要としない学協会もあれば、委託したくても費用を確保できない学協会もあります。外部に委託すれば、担当者が交代しても一定の業務を継続できることが利点の一つになります。一方、学協会自身が工程を担う場合には、外部への委託費用を抑えられるものの、担当者の作業負担や引き継ぎ体制を考慮する必要があります。
システムと実務は技術的には切り離せるものであり、どこまでを自ら担い、どこからを外部に委ねるかは、人員、予算、継続性といった条件によって学協会ごとに異なります。学会誌の出版は、こうした条件のもとで組み立てられた運営体制によって支えられています。
全文XML化を工程確認の機会にする
この分業のあり方を見直す一つのきっかけになるのが、J-STAGEの全文XML登載の必須化です。2026年4月に示された方針では、資料種別が「ジャーナル」に設定された刊行物で公開される論文について、2029年度中に全文XMLでの登載を必須とするとされています。
編集後記などの論文以外の記事は必須の対象外であり、すでに公開済みの過去の記事まで一律に対象となるわけではありません。制度の内容とJATS XMLの基礎については、過去記事「J-STAGE全文XML義務化とは?学協会が知っておきたいJATS XMLの基礎知識」で解説しています。
現状を数字で見ると、2025年度のカレント誌3,705誌のうち、全文XMLを利用しているのは281誌、7.6%です。J-STAGEが2023年に行ったアンケートでは、全文XMLを利用していない理由として、担当できる人材がいない、作成に時間がかかる、外注するための予算を確保できない、といった回答が挙げられています。全文XMLへの移行を進めるには、作成方法だけでなく、その作業を誰が担当し、必要な費用をどう確保するかも検討しなければなりません。
全文XML化は、制作工程に全文XMLの作成と検証を組み込むことを意味します。既存の組版工程を見直したり、XMLを起点とした制作方式に切り替えたりする場合もあるでしょう。その組み込み方は、現在どの業務を誰が担当しているかによって変わります。J-STAGEはWordやLaTeXの原稿からJATS XMLを作成できる無償ツールを提供しており、内製も選択肢になります。ただし、原稿の整備や作成したXMLの確認・修正には、一定の知識と作業時間が必要です。制作を外部に委託している場合には、委託先と対応範囲を相談することになります。
いずれの場合も、出発点になるのは自誌の制作工程と役割分担です。内製するか外注するかを決める前に、現在どの工程を誰が担当しているかを学協会側で把握しておくことが、対応方法を選ぶ前提になります。
学協会が確認しておきたいこと
現在の運営体制を確認する際には、次のような点を整理しておくとよいのではないでしょうか。
自誌の出版工程(投稿受付、査読、採択、組版、XML作成、J-STAGE登載、DOI登録)を、学協会側で一通り説明できるか
それぞれの工程を学協会自身が担っているのか、委託しているのか、担当が明確になっているか
委託先を変更することになった場合、投稿履歴、著者情報、査読記録、書誌情報、XML、PDFといったデータを、どのような形式で引き継げるか
担当者が交替しても、同じ工程を再現できる資料が学協会側に残っているか
いずれも、運営が順調なときには意識されにくい項目です。しかし、事務局の交替や制度の変更が重なったときに、学協会がどこまで自誌の出版工程を把握しているかが重要になります。
おわりに
J-STAGEを利用する学協会では、公開基盤をJ-STAGEが提供する一方、投稿・査読の管理や制作などの実務を学協会自身が担ったり、外部に委託したりしています。その分担のあり方は、学協会の人員や予算、運営体制によって異なります。
全文XML化への対応を考える際には、原稿受付からJ-STAGEへの登載までの現在の工程を確認し、どの作業を学協会自身が行い、どの作業を外部に委託しているかを整理しておくとよいでしょう。委託先と相談する場合にも、現在の工程と役割分担が明確になっていれば、必要な作業や費用について具体的に検討できます。



