top of page

インタビュー:玉川大学・佐藤一臣先生(Best Paper Award受賞)

  • 5月15日
  • 読了時間: 5分



MDPIでは、科学的価値と広範な影響力を持つ優れた研究を称え、毎年Best Paper Awardを発表しています。


本論文は、日本産アシツキ抽出物の抗メラニン生成作用および抗酸化作用を示し、天然由来素材の化粧品分野における新たな可能性を提示する研究として高く評価されました。責任著者である佐藤一臣先生(玉川大学農学部)にお話を伺いました。


1. このたびはBest Paper Awardのご受賞、誠におめでとうございます。まずは今回の受賞についてのご感想をお聞かせください。


この論文は一昨年に発表したもので、受賞のご連絡をいただいたときは大変驚きました。すぐに共同研究者の皆様に連絡し、今回の受賞をともに喜びました。本研究は、本学と企業(マイクロアルジェコーポレーション)の共同研究によって進められたものであり、多くの方々のご協力の上に成り立っています。その成果がこのような形で評価されたことを大変うれしく思っています。

 

2. 本研究に取り組まれた背景や問題意識について教えてください。アシツキとはどのような素材で、着目されたきっかけは何だったのでしょうか。

 

医薬品や化粧品に用いられている有効成分の多くは植物由来ですが、微細藻類については非常に多様な生物群であるにもかかわらず、その機能性に関する研究はまだ十分に進んでいるとは言えません。


私たちは、さまざまな微細藻類の中から、機能性食品や化粧品素材として利用できる新たな有効成分を探索してきました。


今回着目したアシツキ(Nostoc verrucosum)は、淡水中に生育するシアノバクテリアの一種で、日本では古くから食用とされてきた素材です。奈良時代末期に編まれた「万葉集」にも登場し、当時の人々に親しまれていたことがうかがえます。


しかし現在では、その存在を知る人は多くありません。共同研究を行ったマイクロアルジェコーポレーションでは、日本の伝統的な食文化の一つとしてアシツキを復活・保存したいという思いを持っており、その付加価値を明らかにすることを目的として本研究に取り組みました。令和の時代に、元号の出典である万葉集にも記されたこの素材の新たな可能性を見出したいと考えたことが、本研究の出発点です。

 

3. 本論文のポイントを、専門外の読者にもわかりやすくご説明ください。どのような点が独自性で、どのような成果が得られたのでしょうか。


本研究では、アシツキの抽出物に、メラニンの産生を抑える作用と抗酸化作用があることを明らかにしました。メラニンは皮膚のシミや色素沈着の原因となるため、その生成を抑える成分は美白化粧品素材として注目されています。


本研究の独自性は、日本の伝統食材であるアシツキに着目し、その美容・健康機能を科学的に実証した点にあります。また、野外で採取したアシツキを培養し、安定供給可能な形で研究に利用したことも重要な成果です。

 

4. 本研究を進めるうえで、特に工夫された点や難しかった点があれば教えてください。


最も大きな挑戦は、天然記念物でもあるアシツキを安定して培養することでした。アシツキの培養に関する報告は限られており、特にある程度の規模で培養を行った例は世界にも例はありません。


共同研究先のマイクロアルジェコーポレーションでは、試行錯誤を重ねながら培養条件を最適化し、屋内で安定して増殖させることに成功しました。この技術基盤があったからこそ、本研究を進めることができました。

 

5. 化粧品分野では天然由来成分への関心が高まっています。今回の研究成果は、アシツキのような天然由来素材の活用にどのような新たな可能性を示すものだとお考えでしょうか。


近年、化粧品業界では天然由来成分への関心がますます高まっています。アシツキは古くから食用とされてきた素材であり、安全性の面でも大きな利点があります。


今回の研究により、アシツキに抗酸化作用とメラニン生成抑制作用があることが示され、化粧品素材や機能性食品素材としての可能性が明らかになりました。また、これまで十分に活用されてこなかった伝統的天然素材を再評価し、その保存や活用につなげる契機になると考えています。さらに、微細藻類は種ごとに含有成分が大きく異なるため、今後も新たな有用成分の発見が期待されます。

 

6. 本論文のどのような点が、今回特に高く評価されたのではないかと先生ご自身はお考えでしょうか。


微細藻類の機能性に関する研究はまだ限られており、その有用性を明らかにしたことが評価されたのではないかと考えています。


また、「万葉集」という言葉を論文に登場させ、伝統的な素材を現代の科学的手法で解析し、新たな価値を見出したというストーリー性も目を引いたのかもしれません。

 

7. 本研究を踏まえて、今後さらに深めていきたいテーマや、次に取り組みたい課題を教えてください。


現在、アシツキに含まれる有効成分の同定を進めています。どの化合物がメラニン生成抑制作用や抗酸化作用を担っているのかを明らかにし、その作用機序をさらに詳しく解析したいと考えています。


またアシツキと同様に古くから食されてきたイシクラゲ(Nostoc commune)にも最近着目しております。微細藻類は培養コストがかかるため、一般食としての利用は難しいという現状もあります。そのため、微細藻類の新たな付加価値を見出すことが重要であると考えています。

bottom of page