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オープンサイエンス時代の論文公開:オープンアクセスの全体像と今後

更新日:7月3日

オープンアクセスジャーナルとは、世界中どこでも、誰でも、研究成果にアクセスできるようにインターネット上に無料公開された論文のことです。従来の購読型ジャーナルと異なり、世界中全ての人々へ科学情報を公開することで、より多くの知的革新を引き起こし、科学技術の発展に貢献することを目的としています。
オープンアクセスジャーナルとは、世界中どこでも、誰でも、研究成果にアクセスできるようにインターネット上に無料公開された論文のことです。従来の購読型ジャーナルと異なり、世界中全ての人々へ科学情報を公開することで、より多くの知的革新を引き起こし、科学技術の発展に貢献することを目的としています。

 

オープンアクセスとは

オープンアクセスとは、インターネット上に無料公開することで誰もが制限なく自由に閲覧・利用できる仕組みのことです。学術論文・科学情報に対してこの考え方が広まったのは、2001年に開かれたBudapest Open Access Initiative(BOAI)を中心とする一連のオープンアクセス化の運動に由来しています。さらに論文購読料を読者に課す従来型の出版社の相次ぐ購読料の値上げも相まって、今日までその規模は拡大し続けています(オープンアクセス学術誌要覧 DOAJ掲載のオープンアクセスジャーナルは2024年時点で20,000誌以上)

 

オープンアクセスの形式

Budapest Open Access Initiativeでは、オープンアクセスジャーナルの方式として以下の2つの形式を提示しています。

 

- ゴールドロード Gold Road

ゴールドオープンアクセスモデル。出版社のウェブサイト上に掲載された論文自体が自由閲覧可能なものであり、多くの場合クリエイティブ・コモンズのライセンス(表示 BY, 表示-継承 BY-SA)を伴っています。この場合、論文の著作権は著者に所属し、ライセンスの制限のもと二次利用などが許可されます。ゴールドロードでは、閲覧するための購読料が課されない代わりに、著者が論文掲載料(Article Processing Charge)を支払うことが一般的です。MDPIのジャーナルは全てこのゴールドロードでオープンアクセスを達成しています。

 

- グリーンロード Green Road

グリーンオープンアクセスモデル。出版した論文を著者自身がセルフアーカイブとして個人や機関のウェブサイト上に無料公開することで、読者の自由閲覧を可能にします。この場合、出版元によってセルフアーカイブ可能な期間や著作権の取り扱いが異なるため、利用の際は出版元に問い合わせが必要です。グリーンロードでは、従来通り論文購読料を出版社に支払う必要が残り続けるため、購読型モデルから完全な脱却ができない等の問題が指摘されています。

購読型からオープンアクセス型への過渡期である現在、上記の形式とは別にハイブリッドジャーナルと呼ばれる従来の購読型ジャーナルながら著者が論文掲載料を払うことで論文ごとにオープンアクセス化できる論文誌が知られています。しかし、購読料と掲載料の二重取りの問題が指摘されています。二重取りの問題解決のため、各出版社と機関およびコンソーシアムでは解決策が活発に提案・議論されています。近年、グリーンロードにおける論文のアーカイブ先のレポジトリとして、プレプリントサーバと呼ばれる査読前論文を公開する電子アーカイブが多く運営されています。1991年に設立された物理学・数学・情報科学分野のarXivを始めとする研究コミュニティが運営するものや、出版社が運営するプレプリントサーバも存在します。

 

オープンアクセスに関する注意点

オープンアクセスジャーナルは、フリーアクセスではありますが、上記のように採用モデルに応じて著作権の所属先や二次利用の制限が明確に異なります。二次利用や改変の際は、各論文のライセンスを確認し、著作権の取り扱いにご注意ください。特にグリーンロードの場合は、不測のトラブルを避けるために、必ず出版元へ問い合わせることをお勧めします。

また、ゴールドオープンアクセスモデルは特に自費出版と誤解されることもありますが、従来の学術雑誌と同様に査読により品質保証された論文運営モデルです。そのため、十分な掲載数・引用数を持つオープンアクセスジャーナルは、各ジャーナルインデックス(Clarivate社 Web of Science等)に掲載されるなど、その信頼性が保証されています。しかしながら、オープンアクセス、特に著者の方からの論文掲載料で支えられているゴールドオープンアクセス形式は、そのビジネスモデルの特性上「捕食的な」偽装出版社の温床にもなり得る部分があることは事実です。このようなジャーナルを回避するため、オープンアクセス学術誌要覧(DOAJ)に掲載されているジャーナルやオープンアクセス学術出版社協会(OASPA)に参加している出版社を選択することが重要とされています。翻って、従来型の購読料モデルにおいては、業界寡占による購読料高騰の問題が根強く残っています。学術出版業界・オープンアクセス出版業界に依然として存在するこのような問題に向き合うために、MDPIではDOAJやOASPA等の各コンソーシアムの会員となりあらゆる議論にオープンに参加しています。過去あったMDPIに対する批判を真摯に受け止め、研究者の皆様の信頼を得られるよう活動しています。

 

オープンアクセスの利点

オープンアクセス形式で公開された論文は、それ以外の論文に比べて拡散されやすく引用されやすいことがいくつかの調査により支持されています。2018年に報告されたSpringer Nature社の調査によると、オープンアクセス形式で公開された論文はそれ以外の論文に比べ4倍のダウンロード数、1.6倍の被引用数、2.4倍のAltmetric Attention Scoreを獲得していることがわかりました。オープンアクセス形式で出版することで、研究者は自身の研究成果をより強くアピールでき、学術コミュニティ内外のより広い層から関心を集めることができると言えるでしょう。

また、オープンアクセス形式により誰もが閲覧・利用可能な形で研究成果を公開することは、新たな革新や予期せぬ創発を引き起こす可能性も秘めています。研究データのオープン化、科学情報のオープン化によって推進される「オープンサイエンス」は、Foldit ProjectやPolymath Projectに代表される革新的な科学技術の発展へとつながる新しい科学の形として注目されています。

MDPIは、オープンアクセス出版のパイオニアとして、オープンアクセスをさらに推進し、オープンサイエンスとオープンサイエンスがもたらす科学技術の発展に貢献すべく活動を行っています。

 

参照文献

”ブダペスト・オープンアクセス・イニシアティヴから10年:デフォルト値を「オープン」に(Japanese Translation)”, Budapest Open Access Initiative(2012年9月12日) Link

”オープンアクセスハンドブック 第2版”, 尾城 孝一, 杉田 茂樹, 木下 直, 松本 侑子, 石田 唯, 井上 知永理, 大原 司, 横井 慶子. UTokyo Repository(2017年3月31日) Link

The Directory of Open Access Journals(DOAJ) Link

”オープンアクセスとクリエイティブ・コモンズ採用における注意点:開かれた研究成果の利活用のために”, 水野 祐. 情報管理(2016年59巻pp.433–440) Link

”Conclusions from OASPA Membership Committee Investigation into MDPI”, Open Access Scholarly Publishing Association(2014年4月11日) Link

“Citation Advantage of Open Access Articles”, Gunther Eysenbach. PLOS Biology(2006年4号e157) Link

“Taylor & Francis Open Access Survey” Taylor & Francis (2014年6月)

”Assessing the open access effect for hybrid journals”, Hélène Draux, Mithu Lucraft, John Walker. White paper by SpringerNature(2018年6月) Link

“Foldit”

”Polymath Blog” Link

“オープンサイエンス革命”, マイケル ニールセン (高橋 洋 訳). 紀伊國屋書店(2013年3月). ISBN-10: 4314011041.


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